名跡みょうせき)” の例文
足手まといと存じましたが、許してやるについて、いずれ叔父の名跡みょうせきを継ぐ者でございますゆえ、四郎右衛門と名のらせましたもので
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近いうちに自分の踊り方の名跡みょうせきを継がし、自分の目がねに叶う妻を宛がって、自分の名を担って日本一の幇間になって貰おうと思っていた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
元来この縁起の書付かきつけと申しますのは、呉家の名跡みょうせきがるる御主人夫婦が初めての御墓参の時に人を払って御覧に入れる事に相成っております。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いまでは自分があいし愛される母親や兄弟があるだけではない、その国で名誉めいよのある先祖せんぞ名跡みょうせきをついで、ばくだいな財産ざいさん相続そうぞくする身の上になったのである。
三月六日に優善は「身持みもち不行跡不埒ふらち」のかどを以て隠居を命ぜられ、同時に「御憐憫ごれんびんを以て名跡みょうせき御立被下置おんたてくだされおく
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
半蔵がまだ親の名跡みょうせきを継がないのに比べると、寿平次の方はすでに青年の庄屋であるの違いだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
表向おもてむきになれば名跡みょうせきけがれるから重次郎のなさけで旅費を貰うて家出を致したが、丁度懐妊中の子を生落うみおとして夏という娘を得たから、ようやく十五歳まで育って楽しみに致した所が
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と銀の字、如才じょさいない。昨今さっこん少し野心が頭をもたげて来た。師匠夫婦の覚えが芽出度いにつれて、美代子さんが目につく。内弟子は自分一人だ。師匠の名跡みょうせきを継げば、美代子さんが貰える。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
峰丹波がこの不知火流の名跡みょうせきを継ぎ、司馬十方斎のあとを襲うとの披露をしてしまったあとで、あの柳生一刀流の連中に正式にかけあって、邸外へおっぽり出してしまおうという魂胆。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かえって殿のおほめにあずかり、八重には、重役の伊村作右衛門末子作之助の入縁仰せつけられて中堂の名跡みょうせきをつがせ、召使いの鞠事は、歩行目付かちめつけの戸井市左衛門とて美男の若侍に嫁がせ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これが普通だったら秩禄没収ちつろくぼっしゅう、御家は改易かいえき、その身は勿論切腹と思われたのに、竜造寺家末流という由緒から名跡みょうせきと徳川家客分の待遇が物を言って、幸運にも長門守は罪一等を減ぜられた上
佃は、岡本の二男であったが、遠縁の佃の名跡みょうせきを継いでいたのであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この中村菊之丞の名跡みょうせき、あれでなければ継がせたいものもなく、あれが襲名してくれさえすれば、わしの名は、未来永劫えいごう、芝居道の語りつたえにものころうもの——だが、それは出来ぬ望みだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
悪くとって呉れちゃあ困るぜ幸さん、おまえだって杉田屋の名跡みょうせき
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「な、なぜです。聞けば貴公は、小幡家の名跡みょうせきをついで、亡師の家名を再興すると、伝えられておる身なのに」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師匠はまた師匠で自分の名跡みょうせきを継がし、自分の理想する内容の立派な幇間を仕立上げようと企んでいた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
年はもいかぬ女の身で斯様の処へ這入って芸者を致してるか、如何にも不便ふびんな事であると存じました故に、何うぞ美代吉を身請致して別家を為し、松山の名跡みょうせきを立てさせたい
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たずぬるに長唄杵屋の一派は俳優中村勘五郎から出て、その宗家はよよ喜三郎また六左衛門と称し現に日本橋坂本町さかもとちょう十八番地にあって名跡みょうせきを伝えている。いわゆる植木店うえきだな家元いえもとである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その後、かの狂へる人のたね、玉の如き男子なりしが、事無く此世に生まれ出で、長じて妻を迎へ、吾家の名跡みょうせきを継ぎ候ひしが、勝空上人の戒めに依り、仏壇には余人を近づけしめず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
初代惣右衛門はこの村に生まれて、十八歳の時から親の名跡みょうせきを継ぎ、岩石の間をもいとわず百姓の仕事を励んだ。本家は代々の年寄役でもあったので、若輩じゃくはいながらにその役をも勤めた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは三人が対等なら、誰かその中の一人が師匠の名跡みょうせきを継いで、美代子さんを貰うということだった。鐙君と錺君は本能的に自己を主張した。その第一は兄弟子の陰口をきくことだった。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と一々断りましたが、旧主堀丹波守殿よりの仰せは拒むに拒まれず、余儀なく隠居同様として親の元高もとだか三百八十石にてお抱えになりました。近頃まで御藩中に浪島という名跡みょうせきが残って居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
のちに養子を致して白島の名跡みょうせきを立てますと云う。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)