取潰とりつぶ)” の例文
また御政治の方針からいっても、大藩の封地ほうちは、できる限り、けずり取るか、取潰とりつぶすか、せねばならぬ。その大きな後始末が残っている
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青江備前守が時々吉原へ遊びに来ることを知って居るから、あの高慢な頭の髷を切って、青江の家を取潰とりつぶさせる気になったのだ。
「否というより、然りと云うほうが自然だろう、元和このかた、大名取潰とりつぶしは幕府の根本政策の一つであり、その主脳は伊豆守であった」
刃傷にんじょうでもすれば喧嘩両成敗、氏郷も政宗も取潰とりつぶされて終うし、自分も大きな越度おちどである。二桃三士を殺すのはかりごととも異なるが、一席の会合が三人の身の上である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「それは浅見せんけんじゃ、やがて御当家は御取潰とりつぶし、これは免れぬ御運じゃ」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
放埒ほうらつだけならまだしも助かるが、殊更ことさら、幕府の忌諱ききに触れるような所行ばかりする。政道に不平を抱いているかのように推測おしはかられ、幕府の諸侯取潰とりつぶしの政策に口実を与えるような危険な状態になった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
原士の残る者たちは、阿波本国の取潰とりつぶしと聞いて、闘う気もくじけ、いつのまにか三位卿の死骸を抱えて、麓のほうへ逃げ散っていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青江備前守が時々吉原へ遊びに來ることを知つて居るから、あの高慢な頭の髷を切つて、青江の家を取潰とりつぶさせる氣になつたのだ。
第一は主家の改易であった、その年、つまり寛永かんえい四年正月、下野守忠郷しもつけのかみたださとが二十五歳で病歿びょうぼつすると、嗣子ししの無いことが原因で会津六十万石は取潰とりつぶしとなった。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
従来しばしば取潰とりつぶしにかかった官軍といえど、生きて還ったためしがない——と、までいわれている巨大な“無法者地帯の浮巣うきす”だったのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、後年金森家が取潰とりつぶされたのは、こんなつまらない事が幾つも/\重つて、公儀の心證を惡くしたこともその原因の一つだつたのです。
一ノ関は「取潰とりつぶし」を主張し、岩沼は「旧のまま」といい、自分は「半知にて家名を立てよう」という意見を述べたが、いまに到ってもまだ決定していない。
「美濃国郡上、越前国大野、三万八千石の百姓何万人を、地獄の苦しみから救う為に、見事金森家を取潰とりつぶす気になられぬか」
そこで弦之丞様が、首尾よく甲賀世阿弥に会って、何ぞ、蜂須賀家の急所を押すような証拠をつかんでおいでになれば、即座に、阿波二十五万石はお取潰とりつぶしとくる段取になっている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松倉屋が取潰とりつぶされ、五郎兵衛が孫娘と二人で山へ隠れたとき炭焼きを始めるまでの世話をしたのは彼であるが、五年まえに病死したあと、その小屋は住む者もなく、朽ちるままになっていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大塚御薬園は、その後まもなく取潰とりつぶしになり、天和てんな元年護国寺建立の敷地として召上げられた事は人の知るところです。
徳島城の城地没収じょうちぼっしゅう、二十五万石取潰とりつぶしの審議が老中議判ろうじゅうぎはんとなった時、唯一の証拠である、世阿弥よあみ血筆の秘帖の一部が裂きとられてあったため、そこの数ヵ条の肝腎かんじんな個所が不明となり
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取潰とりつぶしてきたことは知っております、しかしそれはすでに終ったことであって、いまなおそのような策謀があり、ことに仙台という由緒ある大藩に手をつける、などということがあるでしょうか
大塚御藥園は、その後間もなく取潰とりつぶしになり、天和てんな元年護國寺建立の敷地として召上げられた事は人の知るところです。
なぜならば、いまや随所に、大小の旧地方豪族を取潰とりつぶしている最中だった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御墨付が出なければ、そうでなくてさえ公儀ににらまれている大場家は明日とも言わず御取潰とりつぶしになりましょう。
お駒とお由利は、由緒ゆいしょある大家の息女むすめだった。ここ数年間に、取潰とりつぶされた犠牲大名のうちの一家、加藤忠広の家老加藤淡路守の遺子わすれがたみで——先に死んだ綾部大機は、忠義無類なその家来であった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
証拠は迷子札——いやまだまだ沢山ある。吉田、園山両家は、七日経たないうちに取潰とりつぶされる——どうだ御両人
近くお取潰とりつぶしのお沙汰さたであろうぞ!
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実は全くその通りで、北条家は取潰とりつぶし、萩野は間もなく岩井家に縁付いて、幸せに送りました。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それでは裏の畠の石灯籠いしどうろうの下に父親が、なんか埋めたに違いない。日光山御造営のことで、江島屋取潰とりつぶしのうわさのあったころだから何千両という金を埋めたかも知れないと
「馬鹿だなア、丸橋忠弥の道場はとうの昔に取潰とりつぶして、床の下まで掘り返したはずだ。そんな穴蔵なんか残っているものか、そいつは盗み溜めた金に決っているじゃないか」
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
最上もがみのお家を取潰とりつぶしたのも、御先代が怪しい御最期を遂げられたのも、みんな山野辺右衛門やまのべえもん様をはじめ、楯岡たておかなどの仕業に相違ない、お家の潰れるのも構わず公儀に楯をついて
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あんまり早まって殺すと、万一跡取りが出来ないために、庄司家が取潰とりつぶしになっちゃ元も子もなくなるから、跡取りが決って安心となるまでは、お組はとにかく若様を殺す気づかいはない——