厨房ちゅうぼう)” の例文
厨房ちゅうぼう(料理場)へ入るてまえの細土間に、ずらと野太刀が十数本ならべてある。気になって仕方がないので、つい若者に訊いてみた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかく無事——金椎の厨房ちゅうぼうから饅頭まんじゅうを取って来て、ひそかに兵部の娘に食わせたり、食ったりしたなどは別として——にこれまで来たのに、そうして
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わが庭広からず然れども屋後おくごなほ数歩の菜圃さいほあまさしむ。款冬ふきせりたでねぎいちご薑荷しょうが独活うど、芋、百合、紫蘇しそ山椒さんしょ枸杞くこたぐい時に従つて皆厨房ちゅうぼうりょうとなすに足る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
火気でむしむしする狭い厨房ちゅうぼうの空気は、苦しい伸子の心をとり巻いて、ますます彼女を苦しめた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
支那しなに住んだら支那人と同じように盛んに大蒜をたべるに限る。大蒜さえたべていたら風土病にかかる心配はない」———と、そう云うのが高夏の持論で、上海の彼の厨房ちゅうぼうでは
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてわずかに発芽する蔬菜そさいのたぐいを順次に生に忠実な虫に供養するまでである。勿論もちろん厨房ちゅうぼうの助に成ろうはずはない。こんな有様であるから田園生活なんどは毛頭もうとう思いも寄らぬことである。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分があの小宮廷と仲たがいをしたこと、昔は官邸の大膳だいぜん局や厨房ちゅうぼうに信用を得ているとの自惚うぬぼれがあったにしろ——(それをも実は疑っていた)——その信用も今では没落してしまってること
賢夫人は、勿体なくて震えがでるほどだったが、腹をみられてはと、歯を食いしばって我慢したので、その日から、石田家の厨房ちゅうぼうの濫費は、メードさんによって、公然と行なわれることになった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
張の方は「よろしい」と答えて、厨房ちゅうぼうへ駆けこんだ。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
厨房ちゅうぼう日記
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こんどは自分から立っていって薄暗い厨房ちゅうぼうの調理台にあった兎のももみたいなあぶり肉を右手に一本つかみ、それを横へくわえかけた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわせて火遁法を使い、所持の油ボロをいて、徐家じょけの浴室の裏、厨房ちゅうぼう芥捨場ごみすてば、ほか一、二ヵ所に狐火みたいな炎がめらめらかれていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの人々は皆、張角の帷幕いばくに参じたり、厨房ちゅうぼうで働いたり、彼のそば近くしたり、また多くの弟子の中に交じって、弟子となったことを誇ったりした。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若葉の夕闇に、ここかしこ、陣屋の炊煙すいえんが上がっていた。どんな幽邃ゆうすいな寺院も、ひとたび軍馬の営となると、そこは忽ち旺盛おうせいな日常生活の厨房ちゅうぼう馬糞ばふんのぬかるみになった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先后せんこうの祭のときです。驪姫はそっと供え物に、毒を秘めておいて、後、申生にいうには母上のお供え物を、そのまま厨房ちゅうぼうにさげてはもったいない。父君におすすめなさいと。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、次の日李傕りかくの邸からわざわざ料理や引出物を、使いに持たせて贈って来た。厨房ちゅうぼうを通して受け取った郭汜の妻は、わざとその一品の中に、毒を入れて良人の前へ持って来た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎松は、大土間の戸口に立ち、混み入る明智の者を、のっけに二人まで突き刺し、槍を奪われて、多数に立ち向われるや、板敷へ上がって、厨房ちゅうぼうの器具を手あたり次第投げつけて防いだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三名が、いつでもと答えると、母はまた、いそいそと厨房ちゅうぼうのほうへ去った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)