医師くすし)” の例文
旧字:醫師
「わたしが奉公するとなれば、ととさまの御勘気もるる。殿に願うて良い医師くすしを頼むことも出来る。なんのそれが不孝であろうぞ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、それよりは、お願いがある。木戸の訊問で、いちいち迷惑して参ッた。——医師くすし吐雲斎として、通行手形を下さるまいか」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらば如何にすべきとうに、その悪しき玉を切り捨つる法はあれども、未だ我国にて行いしことのなければ、容易たやすからずと医師くすしは言う也。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二人の医師くすしに任せて置いて、おのれはあちこちの建物へ行き、阿諛あゆともがらと一つになり、乱倫の真似するであろう、そこを狙って、そこを狙って……
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或日鷲郎はあわただしく他より帰りて、黄金丸にいへるやう、「やよ黄金丸喜びね。それがし今日医師くすしを聞得たり」トいふに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
イイダの君、『あの見ぐるしき口なおして得させよ』とむつかりてやまず。母なる夫人聞きて、幼きものの心やさしゅういうなればとて医師くすしして縫わせたまいぬ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして「汝らは皆無用の医師くすしなり、ねがわくは汝ら全く黙せよ、しかするは汝らの智慧ちえなるべし」とあざける。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
近きうからにて、山の医師くすしとして知られたり。
これまでの訊問にも、彼は医師くすしの吐雲斎で通って来たのである。どこのたむろでも、その風貌からみて、彼を医師に非ずと見破った者はない。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イイダの君、『あの見ぐるしき口なほして得させよ、』とむつかりてまず。母なる夫人聞きて、幼きものの心やさしういふなればとて医師くすししてはせ玉ひぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
多くの医師くすしを招き、種々くさぐさ、よしということの限りをつくしたれど、ふぐり玉、日に日にただ大きうなりもて行くにつけて、折々、痛み悩むこと更にやむときなし。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
浮藻は医師くすしの冷たい指が、額へ触れたと感じた時、これがこの世の最後だと思った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
清治はいよいよ心配して、すぐに医師くすしを呼ぼうかといったが、玉藻はそれもいやだと断わって、なんでもいいから人の目に触れないところへ行って、苦しい胸を休めていたいと言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そはまことに嬉しき事かな。さばれかく貴き医師くすしのあることを、今日まで知らざりしおぞましさよ。とかくは明日往きて薬を求めん」ト、海月くらげの骨を得し心地して、その翌日あけのひ朝未明あさまだきより立ち出で
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「そうだな、大和口には煙もみえん。大蔵、いずれ木戸の調べもあろうが、医師くすし吐雲斎とうんさいと答えるのを忘れるな」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道服を着た医師くすしめいた男が、盆の上に整然と並べられている、小刀メス小槌こづち小鋸このこぎり生皮剥なまかわはぎの薄刃物、生き眼刳りの小菱鉾こびしぼこ生爪なまづめ剥がしの偃月えんげつ形のきり、幾本かの針といったような物を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
医師くすしはなんと言わしゃれた」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そうか、扶どの。——道理で浮かぬ顔よ。したが、失恋は、酒ではえぬし……医師くすしさじを投げように」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漢権守あやごんのかみ医師くすしとが、枕もとに立っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主君の体をとりかこむ者、医師くすしの寮へ駈け出す者、一瞬はただ黒々とのみ渦巻いた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)