剽軽者ひょうきんもの)” の例文
杉浦のような一本調子の向う見ずの剽軽者ひょうきんものが、ぐんぐん突っ込んで行くところが、かえってああした人たちの気に入るのに違いない。
M侯爵と写真師 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いよう、黒外套くろがいとうの哲学者先生。お久しぶりですな。」剽軽者ひょうきんものの一羽の雀は心安立こころやすだてと御機嫌とりとからこんな風に呼びかけました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
須永の母はなお「あんな顔はしておりますが、見かけによらない実意のある剽軽者ひょうきんものでございますから」と云って一人で笑った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気象者きしょうもので鉄火で、たった十九と言うのに、狼連を手玉に取って、甘塩でしゃぶるようなお駒と、気軽で、剽軽者ひょうきんもので、捉えどころの無い権次が
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
(これはまたわしをカツグ気だな。河内産まれのこのおやじは、これでなかなか剽軽者ひょうきんもので冗談を仕掛けるから油断が出来ぬ)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
陸は生得しょうとくおとなしい子で、泣かずいからず、饒舌じょうぜつすることもなかった。しかし言動が快活なので、剽軽者ひょうきんものとして家人にも他人にも喜ばれたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分の身体の上に発見したそうだ。注射もせず、喫いも呑みもせぬのにどうして中毒が起ったか。その答は、たった一つある。いわく、粘膜ねんまくという剽軽者ひょうきんもの
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
楽隊ジンタの係りの者なども、ようやくのびのびとして、思い思いの雑談に高笑いを立てていたが、剽軽者ひょうきんものの仙次が、自分の役であるピエロの舞台着を調べながら
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そのうちに、お雪ちゃんが思い出しておかしくてたまらないのは、この間お雪が、竜之助から護身の手を教わったという話を聞いて、宿の留守番の嘉七という若い剽軽者ひょうきんもの
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近頃は作者夥間なかまも、ひとりぎめに偉くなって、割前の宴会のみかいの座敷でなく、我が家の大広間で、脇息きょうそくと名づくる殿様道具のおしまずきって、近う……などと、若い人たちをあごさしまね剽軽者ひょうきんものさえあると聞く。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれがやるという剽軽者ひょうきんものがあらわれたらしい
「宗近と云えば、はじめもよっぽど剽軽者ひょうきんものだね。学問も何にも出来ない癖に大きな事ばかり云って、——あれで当人は立派にえらい気なんだよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好色で放蕩ほうとう剽軽者ひょうきんものの彼には、褊一枚の白拍子を抱いて、乱痴気さわぎをやっているところの、この無礼講というものが、どうにも面白くてならないようであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あんまり一間にたれこめて、御病人の看病ばかりなさっているからです、たまにはこっちへ出て来て、この剽軽者ひょうきんものの賢次の話相手になって御覧なさい、少しは気もびてきますよ」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この騒ぎの中へ、剽軽者ひょうきんもののお先っ走りの左孝が顔を出さないはずはありません。
あのは幽霊の真似をして人をおどして慰むような剽軽者ひょうきんものではございません。必ず誰かが教唆きょうさして殺されるように仕組んだので、教唆したものは綾子さん、大木戸伯と貴女あなたほかには、私に心当りは無い。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剽軽者ひょうきんものの例のお杉が、気の毒がって手もとへ引き取り、台所などを手伝わせて、可愛がって養ったので、かつえて死ぬというような、そんな境遇にはいなかったが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とんだ剽軽者ひょうきんものである、変な出しゃばりおやじもあったものだ、近藤勇の同郷人だと口走っていたようだが、世間には、自分の同郷人だと見ると、無暗にめ立て担ぎ上げて騒ぐ奴と、それから
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出来た隙間を無理につないで、友白毛まで添いとげる——というやつは高砂やアと、仲人っていう剽軽者ひょうきんものがはいり、謡ってこしらえた夫婦めおとだけさ。こいつア窮屈でお歯に合わねえ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところがここに粋なことが起こった。何かというに剽軽者ひょうきんものの火事で、二軒の屋敷を焼いてしまった。得たりとそいつへつけ込んだのが、忍侯の松平正敏様で、屋敷地をおかみへ返上したものさ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それじゃアそろそろ用意しやしょう。……おい外伝、剽軽者ひょうきんものを出そうぜ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腹心の老女秋篠あきしのと、これも同じく腹心で、醜婦と大力とで名を取っていた荻ノ江という腰元と、同じく腹心で剽軽者ひょうきんもので、軽口の上手な花車、——以上四人が鳰鳥の前へズラリと一列に並んでいたが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こんなとぼけたことを云い出したのは、剽軽者ひょうきんものの亀菊である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)