別棟べつむね)” の例文
別棟べつむねの母家のほうがざわめき渡って、鈴川源十郎、土生仙之助、つづみの与吉、その他十四、五人の声々が叫びかわしているようす。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
佐伯氏は、あかねさんという、すごいような端麗たんれいな顔をした妹さんと二人で別棟べつむね離屋はなれを借り切って、二階と階下したに別れて住んでいる。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と聞いてみましたら、別棟べつむねに住んでいる馬丁べっとうや農夫たちが、二日おき三日おきに馬で四里離れた大野木まで買い出しに行くというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「店二階で。へエ、此處からは別棟べつむねではございませんが、この二階から店二階へは、梯子を降りて又登らなきや參られません」
その庭をはさんで、脈べや、治療べや、薬べやなぞが別棟べつむねになっているらしく、あかりを出してすかしてみると、庭木はあるが高いのはない。
ひじょうにりっぱな研究室や標本室、図書室、実験室、手術室などがひとかたまりになった別棟べつむねの建物があったのである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しまに手をひかれて、物置と古びた南京羽目との間の細い道を入って行きますと、別棟べつむねの小さい平屋建の入口へ母屋から渡板がかっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お昼の休みに別棟べつむねにある早苗たちの教室のほうへゆくと、いち早く小ツルが見つけて走ってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
店を通ると廊下であり、その突き当たりに別棟べつむねがあり、そこのとびらが開いた時、広太郎思わず「これは?」といった。南蛮屋の部屋の様が、広太郎の眼を驚かせたのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二間造りの別棟べつむねで、魚をかこっておく生洲いけすの水がめぐっており、板場の雑音は近いが、屋根から庭木へ掛けてある川狩かわがり使いの網の目に、色町の中とは見えぬ静かな宵の月が一輪。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本館とは別棟べつむねにして、まず第一に着手されたが、その付近の小さな樹木は、ほとんどすべて次郎の手で整理され、南側には、いつの間にか小さな庭園らしいものさえできあがっていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
別棟べつむねの広い部屋に通された。なかなか立派な部屋だ。大きい食卓が、二つ置かれてある。床の間寄りの食卓をかこんで試験官が六人、二メートルくらいはなれて受験者の食卓。受験者は、僕ひとり。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの駒込追分奥井の邸内に居った時分は、一軒別棟べつむねの家を借りていたので、下宿から飯を取寄せて食っていた。あの時分は『月の都』という小説を書いていて、大に得意で見せる。其時分は冬だった。
正岡子規 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
龍造寺主計が、あの初めて来たときのように、庭を隔てた別棟べつむねに落ちつくと、お高は、思い切って若松屋惣七の部屋へ出かけて行った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三國屋の店と續いて別棟べつむねになつた二階には、お縫とお萬の二人の娘が住み、階下したには主人伊兵衞夫婦と、養子の民彌が寢ることになつて居ります。
暗い長廊下を通って、別棟べつむねになっている研究室の扉までくると、武平は懐中から鍵をだしてそれを開いた。ぷーんと、薬品の匂いが、入口に立つ三人の鼻を打った。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが家はもう近所の人たちの手だすけであらかた片づいていた。別棟べつむね豆腐納屋とうふなやのほうが助かったので、そこの土間にじかにたたみをいれて、そこへ家財道具かざいどうぐをはこんでいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
万一これらの囚罪人の中から病気にかかったものの生じた場合は、別棟べつむねの病人だまりにこれを移獄して、形ながらもお牢屋付きのご官医がこれに投薬する習慣でありました。
市ヶ谷御門外の尾州家、部屋へやずみの万太郎が住居は、邸内北がわの別棟べつむねとみえました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本館の一部に炊事夫すいじふの家族と給仕の私室があり、なお向こうに空林庵くうりんあんという別棟べつむねの小さな建物があって、そこはここにいる三人の私室になっているので、それだけは除外してもらうことにする。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
廊下續きながら別棟べつむねに一つの建物があり、其處に後家のお由、甥の專三郎夫婦、その伜の專之助、死んだ彦太郎の娘のお筆などが住んで居るのでした。
右手にお母屋もやの一部が腕のように伸びていて、別棟べつむねのように見えていた。そこは、店で売った品を、注文に応じて仕立てて届ける、お針たちの詰めているところであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今は——どこへ行ったのか姿はここに見えないが、お杉隠居がなじみの旅籠で、京都に来ればここと決めてあり、ここへ来ればこの畑の中の別棟べつむねがあの婆様ばばさまのお好みであるらしい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中で一番洒落たのが佐野喜の寮で、左手は奉公人達が息拔きに來る別棟べつむねの粗末な離屋。
あの漁師の娘、お露坊の嫉妬から出た注進によって、玄心斎その他が、あわてふためいて三方子川尻の六兵衛の家に駆けつけ、病後の源三郎を、即刻この道場の別棟べつむねへ迎い戻した。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その中で一番洒落たのが佐野喜の寮で、左手は奉公人達が息抜きに来る別棟べつむねの粗末な離屋はなれ
ります。夜が明けると、あちらの別棟べつむねから下女のお吉や、下男の音松が參りますが、御主人は折角寮へ來て休んでゐるんだから夜だけでも靜かな方がいゝと仰しやるもので——
出刄庖丁をお勝手から持ち出して、庭傳ひに別棟べつむねになつて居る此處へ來たとしたら、此處から忍び込む外はあるまい。物置を搜したら、踏臺にした箱くらゐは見付かるだらう。
薪水まきみづの世話をするために、別棟べつむね乍ら、道人の起居する庵室に入ることになつたのです。
それは厳重に仕切られた別棟べつむねの方に寝るので、奉公人仲間に知られずに、ここへ来る工夫はなかったのです。次に平次が逢ったのは、幾太郎の妹で、主人三郎兵衛の娘のお栄でした。
それは嚴重に仕切られた別棟べつむねの方に寢るので、奉公人仲間に知られずに、此處へ來る工夫はなかつたのです。次に平次が逢つたのは、幾太郎の妹で、主人三郎兵衞の娘のお榮でした。
紅も白粉おしろいも洗い落して、半歳余りの精進をつづけた後、鉄心道人にその堅固な信心を見込まれ、薪水まきみずの世話をするために、別棟べつむねながら、道人の起居する庵室に入ることになったのです。
「ゆうべ皆んな別棟べつむねに引揚げたのは何どきだ」
「昨夜皆んな別棟べつむねに引揚げたのは何刻だ」