凭懸よりかか)” の例文
またぼうとなって、居心いごころすわらず、四畳半を燈火ともしび前後まえうしろ、障子に凭懸よりかかると、透間からふっと蛇のにおいが来そうで、驚いてって出る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、怎して残つてゐたものか、二三人の女生徒が小使室の方から出て来た様子がしたので、私は何とも言へぬ羞かしさに急に動悸がして来て、ぴたりと柱に凭懸よりかかつた儘、顔を見せまいと俯いた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
馴れない方がウッカリ凭懸よりかかると、前の方にのめる事がありますよ。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いきおい辟易へきえきせざるを得ずで、客人ぎょっとしたていで、足がすくんで、そのまま欄干に凭懸よりかかると、一小間抜けたのが、おもしに打たれて、ぐらぐらと震動に及ぶ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(縁側の真中まんなかの——あの柱に、凭懸よりかかったのは太田(西洋画家)さんですがね、横顔を御覧なさい、頬がげっそりして面長おもながで、心持、目許めもと、ね、第一、髪が房々と真黒まっくろ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「弥吉どん。本当に居ないですか、菊ちゃん。」とお縫は箪笥に凭懸よりかかったまま、少し身を引いて三寸ばかりいている襖、寝間にしておく隣のなが四畳のその襖に手を懸けたが
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや! お蝶さんだ。」と二階の欄干てすり凭懸よりかかったのが、思わず威勢よく声を立てた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月は裏山に照りながら海には一面にぼうもやかかって、粗い貝も見つからないので、所在なくて、背丈に倍ぐらいな磯馴松そなれまつ凭懸よりかかって、入海いりうみの空、遠く遥々はるばるはてしも知れない浪を見て
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつ煩っても、ごまかして薬をのんだ事のない人が、その癖、あの、……今度ばかりは、掻巻かいまき凭懸よりかかっていて、お猪口ちょこを頂いて飲むんだわ。それがなお心細いんだって、みんなそう云うの。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
絶えずはたはたと鳴らす団扇うちわづかい、ぐいと、抱えて抜かないばかり、柱に、えいとこさで凭懸よりかかる、と畳半畳だぶだぶと腰の周囲まわりに隠れる形体ぎょうてい。けれども有名な琴の師匠で、芸は嬉しい。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かますの煙草入を懐中ふところしまうと、しずかに身を起して立ったのは——あらためて松の幹にも凭懸よりかかって、すがって、あせって、もだえて、——ここから見ゆるという、花の雲井をいまはただ、あおくも白くも
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どたどたと立合たちあいうしろ凭懸よりかかって
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)