-
トップ
>
-
其方此方
>
-
そちこち
建續く
家は、なぞへに
向うへ
遠山の
尾を
曳いて、
其方此方の、
庭、
背戸、
空地は、
飛々の
谷とも
思はれるのに、
涼しさは
氣勢もなし。
振返ると、その闇の中に
其方此方と突つ立てゐる石塔の頭が、うよ/\とみのるの方に
居膝り寄つてくる樣な幽な幻影を搖がしてゐた。
余は又目科が
斯く詮
鑿する間に室中を
其方此方と見廻して先に判事の書記が寄りたる
卓子の下にて見し彼のコロップの栓を拾い上げたり
低くなつた
北岸の川原にも、
円葉楊の繁みの
其方此方、青く瞬く星を
鏤めた其
隅々には、
暗に仄めく月見草が、しと/\と露を帯びて、
一団づゝ処々に咲き乱れてゐる。
座敷は
其方此方、
人声して、台所には
賑かなものの音、
炉辺には
寂びた
笑も時々聞える。
今年三月の
半ばより、
東京市中穩かならず、
天然痘流行につき、
其方此方から
注意をされて、
身體髮膚これを
父母にうけたり
敢て
損ひ
毀らざるを、と
其の
父母は
扨て
在さねども、……
生命は
惜しし