さきん)” の例文
島野は多磨太がさきんじたりと聞くより、胸の内安からず、あたふた床几しょうぎを離れて立ったが、いざとなると、さて容易な処ではない。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然れどもゴンクウルは衆にさきんじて浮世絵に着目したる最初の一人いちにんたり。その著歌麿伝の価値はかくの如き白璧はくへき微瑕びかによりて上下じょうげするものにあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かくても貫一はひざくづさで、巻莨入まきたばこいれ取出とりいだせしが、生憎あやにく一本の莨もあらざりければ、手を鳴さんとするを、満枝はさきんじて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(同月七日従二位にすゝみ玉へり)此密事みつじいかにしてか時平公のきゝにふれしかば、事にさきんじて 帝にざんするやうは、君の御弟斉世ときよ親王は道真みちざねむすめ室適しつてきして寵遇ちようぐうあつし。
余にさきんずる十数年以前より基督教を信じしかも欧米大家の信用を有し全教会の頭梁とうりょうとして仰がるる某高徳家は余を無神論者なりといえり、余は実に無神論者にあらざるか、名を宗教社会に轟かし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
政美のはじめて『蕙斎人物略画式けいさいじんぶつりゃくがしき』をいだせしは寛政かんせい七年にして『北斎漫画』初篇梓行しこうさきんずること正に二十年なり(寛政七年北斎は菱川宗理ひしかわそうりと称し多く摺物を描けり)
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(同月七日従二位にすゝみ玉へり)此密事みつじいかにしてか時平公のきゝにふれしかば、事にさきんじて 帝にざんするやうは、君の御弟斉世ときよ親王は道真みちざねむすめ室適しつてきして寵遇ちようぐうあつし。
事物の根本的性質をきわめんとするにさきんじその外形より判断を下してみずから皮相的心理状態に満足せんとする事なり。かるが故に万事全く理想的傾向を有せざる事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
物をあつらえるにも人にさきんじようとして大声を揚げ、卓子たくしを叩き、杖で床を突いて、給仕人を呼ぶ。中にはそれさえ待ち切れず立って料理場をのぞき、直接料理人に命令するものもある。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毅堂ははじめて江戸に来って昌平黌に入るにさきんじて、何人の家に旅装を解いたのであろう。「金山仙史私記」と題したその自伝が存在していたなら、あるいはこれを詳にすることを得たかも知れない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)