俯伏うつぶせ)” の例文
彼女は、寒むそうに肩をすぼめると、テントの裏側の、暑い砂の上に、身を投げるように、俯伏うつぶせになったまま、のびのびと寝た。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
突棒つくぼう刺股さすまたもじりなどを持って追掛おっかけて来て、折り重り、亥太郎を俯伏うつぶせに倒して縄を掛け、すぐに見附へ連れて来て調べると、亥太郎の云うには
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一方、機関助手の土屋良平は、そんな事も知らずに給水作業に取掛る。そして、あの恐ろしい機構からくりに引掛って路面の上へ俯伏うつぶせにぶっ倒れる。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
長押なげしの下の壁の上塗うわぬりが以前から一ところ落ちていて、ちょうど俯伏うつぶせになった人間の顔の恰好をしていたのが、今日はいつもより大きく見える。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
其れが地面へ落ちると其種子の重みに由て其殻片が多くは背面を上にして下を向き俯伏うつぶせになつてゐるのは其処に大に意義の存する点が観られる
風に飜へる梧桐の実 (新字旧仮名) / 牧野富太郎(著)
いかなるさまにや結いにけむ、手絡てがらきれも、結んだるあとのもつれもありながら、黒髪はらりと肩に乱れて、狂える獅子のたてがみした、俯伏うつぶせなのが起返る。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の床と並んで敷かれた床の上から半ばはい出して、机に頭をのせて俯伏うつぶせに仆れて居る清三の姿が見られました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
お師匠さんは、私の言葉に、小さな声で左様なら、と、お答えになりましたが、よほど、おつむりめていましたものか、そのまま、お稽古台の上に、俯伏うつぶせになられました
健三は時々便所へ通う廊下に俯伏うつぶせになって倒れている細君を抱き起して床の上まで連れて来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広巳は双子に帯際にきつかれながら、俯伏うつぶせに倒れた紺の腹掛の上に馬乗うまのりになっていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死んだようになって、俯伏うつぶせのままじっとしていたら、どろぼうの足音が、のしのし聞えて、部屋から出て行くらしいので、ほっとしたの。可笑おかしなどろぼうね。ちゃんと雨戸まで、しめて行ったのね。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
俯伏うつぶせ干潟ひがたをわぶる貝の葉の空虚うつろの我も
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
(地に俯伏うつぶせになる。)
そしてワーッと集まった野次馬の前で、その俯伏うつぶせになっていたのを起してみると、その今いった匕首が、ささっているんだ
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
被害者は菜ッ葉服を着た毬栗いがぐり頭の大男で、両脚を少し膝を折って大の字に開き、右を固く握り締め、左掌で地面を掻きむしる様にして、線路と平行に、薄く雪の積った地面の上に俯伏うつぶせに倒れていた。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
千代子のひざの前に俯伏うつぶせになった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ググググッとマダムが咽喉のどを鳴らすと、グパッと心臓を吐出すような音をたてて、立ち上りかけた卓子に俯伏うつぶせになった。
砂をもぐって、俯伏うつぶせになった体の下から、心臓を突上げられる道理がないですよ……、ところで、あの前後に、あの一番近くを通ったのはあなたじゃないですか——、どうもその浴衣ゆかたすがたというのは
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)