俯伏うっぷ)” の例文
一目それを見た倭文子は、余りの怖さに、ヒーッと、泣くとも叫ぶともつかぬ声を立ててたもとで目かくしをしたまま、俯伏うっぷしてしまった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と悦んで居る処へ酒を勧めたからグッスリえいが廻り、伽羅大尽は碁盤の上へ俯伏うっぷしてスヤリ/\と眠ってしまいました。隣座敷で番頭新造が
その姿を狙って、矢や弾丸も彼へあつまった。光春は、左のひじを曲げて、鎧の袖をひたいのまえにかざし、馬のたてがみに俯伏うっぷし気味に突撃して行った。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
継子さんは食卓の上に俯伏うっぷしているので、初めはなにか考えているのかと思ったのですが、どうも様子がおかしいので、声をかけても返事がない。
停車場の少女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも披露目ひろめの日の冷汗を恥じて、俊吉の膝に俯伏うっぷした処を、(出ばな。)と呼ばれて立ったのである。……
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでもこみあげて来る切ないものを、夫人はおさえにおさえ、遂に堪えきれなくなって顔を俯伏うっぷせた。よろめく思いを男の子の肩に手をかけて支えようとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
乃公は妻君の死体の傍に俯伏うっぷして、腸をかきむしられるような苦痛に責めさいなまれた……。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして自分は縁側えんがわから庭へ下りて行った。その間中、彦太郎は四畳半の壁の側へ俯伏うっぷして、泣き出した時のままの姿勢で、身動きもしないでいた。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
涙と水洟をむせばせて、こらえようとすればするほど、戸板の上に俯伏うっぷしている身は、よけいに踠掻もがき苦しむのだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お百合、座に直った晃の膝に、そのまま俯伏うっぷしてすがっている。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔を抑えて、俯伏うっぷしたのである。外記は、ふたつの眼が、二つとも焼金に突き貫かれたような痛みを感じて
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、遂には、彼はチャブ台の上に俯伏うっぷして了ったのだった。その瞬間、北川氏は彼が泣き出したのではないかと思って、ハッとした。だが、そうではなかった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、渋紙の蒲団ふとんを引きかつごうとすると、その下から、なにか電光のような眼をした生き物が飛びだし、自分の頭を越えたので、彼女は、きゃっといって俯伏うっぷした。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は一種のこらえ難い侮辱ぶじょくを感じて、俯伏うっぷして、身体を震わせて、泣き出した。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
醒めた途端に胸をかすめた新九郎は、いつもの心算つもりでムックリと身を起したが、その弾みにくらくらと眼がまわって、顳顬こめかみを押さえたまま枕に額を乗せて俯伏うっぷしてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お延はそう云って、しどけなく酔った女の囈言うわごとのように、肱つき窓へ俯伏うっぷして叫んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼延灼こえんしゃくは、ついつい、手酌てじゃくをかさねて、したたかに酔ってしまった。さいごに、飯をと亭主が揺り起しても、そこの卓に俯伏うっぷしたまま、どっと疲れも出て眠り入ってしまったていだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、せきもやんでいた障子の内で、あわただしく家来の声がした。どきと、胸をかれながら、そこを開けてみると、半兵衛は真っ赤な懐紙で口を抑えたまま畳へ俯伏うっぷしているのであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に屠腹とふくして、俯伏うっぷした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)