何為なぜ)” の例文
旧字:何爲
「貴様は善くないぞ。麁相そそうを為たと思うたら何為なぜ車をめん。逃げやうとするから呼止めたんじや。貴様の不心得から主人にも恥をかかする」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何為なぜか、秋の暮より今、このほうが心細いんですもの。それでいて汗が出ます、汗じゃなくってこう、あの、暖かさで、心をしぼり出されるようですわ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実に立派な口上を有仰おつしやいましたでは御座いませんか、それ程義のお堅い貴方なら、何為なぜこんな淫乱いんらん人非人にんぴにん阿容おめおめけてお置き遊ばすのですか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし残月ざんげつであったんです。何為なぜかというにその日の正午ひる頃、ずっと上流のあやしげなわたしを、綱につかまって、宙へつるされるようにして渡った時は、顔がかっとする晃々きらきらはげし日当ひあたり
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軽薄でなければいつはり、詐でなければ利慾、愛相あいその尽きた世の中です。それほど可厭いやな世の中なら、何為なぜ一思ひとおもひに死んで了はんか、と或は御不審かも知れん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今だってやっぱり、私は同一おなじこの国の者なんですが、その時は何為なぜか家を出て一月あまり、山へ入って、かれこれ、何でも生れてから死ぬまでの半分は徜徉さまよって、漸々ようよう其処そこを見たように思うですが。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何為なぜなら、さてあらためて言うことがめのない次第なので。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何為なぜか、その上、幼い記憶に怨恨うらみがあるような心持こころもちが、一目見ると直ぐにむらむらと起ったから——この時黄色い、でっぷりしたまゆのない顔を上げて、じろりとひたいで見上げたのを、織次はきっ唯一目ただひとめ
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)