仮住居かりずまい)” の例文
われ浮世の旅の首途かどでしてよりここに二十五年、南海の故郷をさまよい出でしよりここに十年、東都の仮住居かりずまいを見すてしよりここに十日
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
吉左衛門やおまんは味噌納屋みそなやの二階から、お民はわびしい土蔵の仮住居かりずまいから、いずれも新しい木の香のする建物の方に移って来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仮住居かりずまい門口かどぐちに立ったガラッ八の八五郎は、あわてて弥蔵やぞうを抜くと、胡散うさんな鼻のあたりを、ブルンとで廻すのでした。
彼は妻の葬式の日に、わが住む土地を立ちのいて、このルーアンへ来て仮住居かりずまいをしているのですが、その淋しさと悲しさは言うまでもありません。
一歳ひととせ浅草代地河岸だいちがし仮住居かりずまいせし頃の事なり。築地より電車に乗り茅場町かやばちょうへ来かかる折から赫々たる炎天俄にかきくもるよと見る間もなく夕立襲い来りぬ。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駒井は、自分の仮住居かりずまい洲崎すのさきの番所の位置をよく説明して、行程のうち、ぜひ足をとどめるようにとのことを勧め、田山は喜んでそれを請け入れました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大久保百人町に仮住居かりずまいをしている当時、庭のあき地を利用して、唐蜀黍とうもろこしの畑を作り、へちまの棚を作った。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの草川くさかわのほとりに仮住居かりずまいしていたのは、その時のことだったが、モルガンが浮気する——そんなうわさに浮足たって、お雪はフランスへ永住のつもりで、二度目の汽船に乗った。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ここに仮住居かりずまいを定めてからの一週間は何の目に立つ事件もなく過ぎました。私はたいてい部屋で書物を読んで暮らしています。今日は旧正月一日で、この辺はみな旧でお祝いをいたします。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
椿岳の伝統を破った飄逸ひょういつな画を鑑賞するものは先ずこの旧棲を訪うて、画房や前栽せんざいただよう一種異様な蕭散しょうさんの気分に浸らなければその画を身読する事は出来ないが、今ではバラックの仮住居かりずまい
巡査一人草鞋わらじにて後より追附かれたり。中将の墓はと尋ぬれば我れにきてよといふ。道々いたはられながら珍らしき話など聞けば病苦も忘れ、一里余の道はかどりてその笠島の仮住居かりずまいにしばし憩ふ。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「——ここじゃよ、わしの仮住居かりずまいは、なんと暢気のんきなものだろうが」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに住む英国人で、ケウスキイという男は、横浜の海岸通りに新しい商館でも建てられるまで神奈川に仮住居かりずまいするという貿易商であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仕方が無いからまるで気違いのようになって居る女を捨てて、私は永久に神戸の仮住居かりずまいから姿をくらましてしまった。それが、丁度ちょうど二十三年前の三月三日であった。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
大久保百人町に仮住居かりずまいをしている当時、庭のあき地を利用して、唐蜀黍とうもろこしの畑を作り、糸瓜の棚を作った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このお雪さんという子が仮住居かりずまいにしているところに、大きな松の木があるのです、わたしはそれを見ると、あの辺をどうしてもまつ丸殿まるどのと名をつけてみたくなりました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一夜我が仮住居かりずまいをおとづれて共に虫のづるついでに、我も発句といふものを詠まんとはすれどたよるべきすぢもなし、きみわがために心得となるべきくだりくだりを書きてんやとせつにふ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
藪田助八はまた彼の仮住居かりずまいへもどっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
里人の松立てくれぬ仮住居かりずまい
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
本陣の仮住居かりずまいの方では、おまんが孫のそばに目をさますと、半蔵も父も徹夜でいそがしがって、ほとんど家へは寄りつかない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(この山国は仮住居かりずまい
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかすると彼は多吉夫婦が家の二階の仮住居かりずまいらしいところに長い夜を思い明かし、行燈あんどんも暗いまくらもとで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
各国領事がその仮住居かりずまいに掲げた国旗までが新しい港の前途を祝福するかに見えたのである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵庫には居留地の方に新館のできるまで家を借りて仮住居かりずまいする同国の領事もいる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)