仁王門にわうもん)” の例文
本堂の中にと消えた若い芸者の姿すがたは再び階段の下にあらはれて仁王門にわうもんはうへと、素足すあし指先ゆびさき突掛つゝかけた吾妻下駄あづまげた内輪うちわに軽く踏みながら歩いてく。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そりやア仁王門にわうもんだ、これから観音くわんおんさまのおだうだ。梅「道理だうりおほきいと思ひました……あゝ……あぶない。とおどろいて飛下とびさがる。近「フヽヽなんだい、みつともない、はとがゐるんだ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
淺草寺あさくさでら觀世音くわんぜおん八方はつぱうなかに、幾十萬いくじふまん生命いのちたすけて、あき樹立こだちもみどりにして、仁王門にわうもん五重ごぢうたふとともに、やなぎもしだれて、つゆのしたゝるばかりおごそか氣高けだか燒殘やけのこつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第一に浅草といひさへすれば僕の目の前に現れるのは大きい丹塗にぬりの伽藍がらんである。或はあの伽藍を中心にした五重塔ごぢゆうのたふ仁王門にわうもんである。これは今度の震災しんさいにもさいはひと無事に焼残つた。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「そのまゝ八つに疊んで帶の間へ挾んで、御神籤所から段々を降りて石疊いしだたみんで、仁王門にわうもんを出て、粂の平内樣のお堂の前へ立つて、帶の間から先刻の御神籤を出して格子に結はへるんで」
このかなしみはおいと土産物みやげものを買ふ仁王門にわうもんを過ぎて仲店なかみせへ出た時さらまたへがたいものとなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)