二子ふたこ)” の例文
庄三郎は織色おりいろの羽織をまして、二子ふたこの茶のくろっぽいしま布子ぬのこに縞の前掛に、帯は八王子博多を締めて、商人然としている。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さりとは外見みえを捨てゝ堅義を自慢にした身のつくり方、柄の選択えらみこそ野暮ならね高が二子ふたこの綿入れに繻子襟かけたを着て何所に紅くさいところもなく
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
着物は尋常の二子ふたこ唐桟とうざんといったようなのを着け、芥子玉けしだましぼりの頬かむりで隠したかおをこちらに突き出している。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多摩川たまがわ二子ふたこの渡しをわたって少しばかり行くと溝口みぞのくちという宿場がある。その中ほどに亀屋かめやという旅人宿はたごやがある。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この頃は二子ふたこの裏にさえ甲斐機を付ける。斜子の羽織の胴裏が絵甲斐機じゃア郡役所の書記か小学校の先生みていて、待合入りをする旦那だんな估券こけんさわる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
思えば久しく渡しぶねというものに乗ったことはなかったが子供の時分におぼえのある山谷さんや、竹屋、二子ふたこ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二子ふたこの柄もしまもわからぬ腰卷の上に、ヨレヨレの印半纒しるしばんてんを引つかけて、猫の百ひろのやうな三尺帶、髮はほこりだらけで、蒼黒く痩せた顏は、この世の者とも思へぬ凄まじさです。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「多摩川だね、多摩川なら、これをずんずん行けば一本道で二子ふたこの大橋へ出るよ」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第四、嫌わるることにひるまず、しかも先を嫌ってはいけない。そしてあくまでほころびずに、二子ふたこの糸でいつけたように、終始、完全に女の腰に取ッ付いていることをむねとし、紐の使命とする。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三月十八日は高谷千代子の卒業日、私は非番で終日長峰の下宿に寝ているつもりであったけれども、何となく気が欝いでやるせがないので、家を出るとそのまま多摩川の二子ふたこの方に足を向けた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
昭和六年十一月十五日 二子ふたこ多摩川吟行。柳家休憩。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
其後そのあと入違いれちがつて這入はいつましたのが、二子ふたこ筒袖つゝそで織色おりいろ股引もゝひき穿きまして白足袋しろたび麻裏草履あさうらざうり打扮こしらへで男
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
六人の一人は巡査、一人は医者、三人は人夫、そして中折れ帽をかぶって二子ふたこの羽織を着た男は村役場の者らしく、線路に沿うて二三間の所を行きつもどりつしている。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
………ぶくぶくと綿の這入った汚れた木綿の二子ふたこの上に、ぼろぼろになった藍微塵あいみじんのちゃんちゃんを着ているお母さんの背中は、一生懸命に火を吹いているせいか、傴僂せむしのように円くなっている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)