亀屋かめや)” の例文
旧字:龜屋
鳩居堂きゅうきょどう方寸千言ほうすんせんげんという常用の筆五十本線香二束にそくを買い亀屋かめやみせから白葡萄酒しろぶどうしゅ二本ぶらさげて外濠線そとぼりせんの方へ行きかけた折であった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
如何どういう訳か邪魔いりて間もなくそなたは珠運しゅうんとか云うつまらぬ男に、身を救われたる義理づくやら亀屋かめやの亭主の圧制やら、急に婚礼するというに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
多摩川たまがわ二子ふたこの渡しをわたって少しばかり行くと溝口みぞのくちという宿場がある。その中ほどに亀屋かめやという旅人宿はたごやがある。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ええ、そうして、あの池のふち亀屋かめやの出店があるでしょう。——ねえ知っていらっしゃるでしょう、小野さん」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亀屋かめや栄吉、伏見屋伊之助、梅屋五助、桝田屋ますだや小左衛門、蓬莱屋ほうらいや新助、旧問屋九郎兵衛、組頭庄助、同じく平兵衛、妻籠本陣の寿平次、わき本陣の得右衛門なぞは
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
和泉屋の晴れの披露目ひろめとあって、槙町まきちょう亀屋かめやの大浚えにはいつもの通り望月が心配して下方連を集めて来たまでは好かったが、笛を勤めるのが乗物町の名人又七と聞いて
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
是程の麗わしきお辰、何とてさもしき心もつべき、さりし日亀屋かめやの奥坐敷ざしきに一生の大事と我も彼もうきたる言葉なく、たがいに飾らず疑わず固めし約束
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
戊辰ぼしんの際に宿役人に進んだ亀屋かめや栄吉をはじめ、旧問屋九郎兵衛、旧年寄役桝田屋小左衛門ますだやこざえもん、同役蓬莱屋ほうらいや新助、同じく梅屋五助、旧組頭くみがしら笹屋ささや庄助、旧五人組の重立った人々
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大津はひとり机に向かって瞑想めいそうに沈んでいた。机の上には二年まえ秋山に示した原稿と同じの『忘れ得ぬ人々』が置いてあって、その最後に書き加えてあったのは『亀屋かめや主人あるじ』であった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
悪気でするではなし、私のことばたてれても女のすたるでもあるまい、こうしましょ、これからあの正直律義りちぎは口つきにも聞ゆる亀屋かめやの亭主に御前を預けて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
世襲の長い習慣も破れて、家柄よりも人物本位の時に移り、本陣付属の問屋場でその勤めぶりを認められた半蔵の従兄いとこ亀屋かめやの栄吉のような人が宿役人仲間の位置に進んだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分で上等も無いもんですが、先日上京した時、銀座の亀屋かめやへ行って最上のをれろと内証ないしょうで三本かって来て此処ここかくして置いたのです、一本は最早もうたいらげて空罎あきびん滑川なめりがわに投げ込みました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
粂さまは何も御存じないでしょうが、亀屋かめや(栄吉のこと)と二人で憎まれ役でさ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)