中央なか)” の例文
あだかの字の形とでも言おうか、その中央なかの棒が廊下ともつかず座敷ともつかぬ、細長い部屋になっていて、妙にるく陰気で暗いところだった。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
目をつぶって腕組みした白髪童顔の玄鶯院を中央なかに、十五、六の人影が、有明ありあけ行燈の灯をはさんで静まり返っていた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この者二の翼を、中央なかの一と左右の三のすぢの間に伸べたれば、その一をもたずそこなはず 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
不意なれば蹌踉よろめきながら、おされて、人の軒に仰ぎ依りつつ、何事ぞと存じ候に、黒き、長き物ずるずると来て、町の中央なかを一文字に貫きながら矢の如くけ抜け候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
村役場と駐在所が中央なか程に向合つてゐて、役場の隣が作右衞門店、萬荒物から酢醤油石油莨、罎詰の酒もあれば、前掛半襟にする布帛もある。箸でちぎれぬ程堅い豆腐も賣る。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
村役場と駐在所が中央なか程に向合つてゐて、役場の隣が作右衛門店、萬荒物から酢醤油石油たばこ、罎詰の酒もあれば、前掛半襟にする布帛きれもある。箸でちぎれぬ程堅い豆腐も売る。
と新造に伴なわれまして引附ひきつけへまいりますと、三人連の職人しゅうでございますが、中央なかに坐っているのが花里を名ざして登楼あがったんで、外はみなお供、何うやら脊負おんぶで遊ぼうという連中
織江を駕籠で送り出して、心くつろいだ冬次郎は、居間にしている中央なかの建物の、利休好みの清楚の部屋で、一人しずかに茶を飲んでいた。熊太郎を相手に飲んだ酒が、まだほのかに顔に残っている。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この暗鬱な一隅から僅に鉄道線路の土手一筋を越えると、そのむこうにはひろびろした火避地を前に控えて、赤坂御所の土塀どべいいぬいの御門というのを中央なかにして長い坂道をば遠く青山の方へ攀登よじのぼっている。
三軒が皆とおしのようになっていて、その中央なかの家の、立腐たちぐされになってる畳の上に、木のちた、如何いかにも怪し気な長持ながもちが二つ置いてある、ふたは開けたなりなので、気味なかのぞいて見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
村役場と駐在所が中央なか程に向合つてゐて、役場の隣が作右衛門店、よろづ荒物から酢醤油石油たばこ、罎詰の酒もあれば、前掛半襟にする布帛きれもある。箸でちぎれぬ程堅い豆腐も売る。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人馬の往来も絶えるほど一日一晩降り抜いた昨日の雨に、大分洗い流されてはいるものの、それでも、格子の中央なかの下目のところに足跡らしい泥の印されてあるのがかすかながらも認められた。
二人の通されたは中央なかの建物の、ずっと奥まった部屋であった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)