下髪さげがみ)” の例文
旧字:下髮
滝太郎は左右をみまわし、今度ははばからず、袂から出して、たなそこに据えたのは、薔薇ばらかおり蝦茶えびちゃのリボン、勇美子が下髪さげがみを留めていたその飾である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その傍に十四五と十二三の下髪さげがみにした二人の娘をれて立つて居た老紳士はふいと待合室の方へ歩み去つた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
若手の芸妓が綱をとって花車だしき出され、そのあとへ、先頭が吉野よしの太夫、殿しんがりが傘止めの下髪さげがみ姿の花人はなんど太夫、芸妓の数が三、四十人、太夫もおなじ位の人数
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
太郎は独楽をふところに持ったまま、たたずんでしばらくその中に見とれていました。ちょうどそこへ足音がして、後方うしろから可愛らしい下髪さげがみの花ちゃんが嬉しそうに微笑ほほえみながら来たのです。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幼年の私は、天子様のために働いて入牢した父を、救はうとした女だと云ふので、下髪さげがみはかま穿いた官女のやうに思つてゐた。しかし実はどう云ふ身分の女であつたかわからない。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(雨月は浜辺にひざまずき、数珠じゅずを繰りつつ、海にむかって回向す。官女玉虫、廿歳、下髪さげがみ被衣かつきをかぶりて出で、松の木かげに立ちて窺いいるうちに、雨月は回向を終りて起たんとす。)
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下髪さげがみであとを追って、手を取って、枕頭まくらもとから送込むと、そこに据えたのが、すっと立って、裾から屏風を抜けて出る。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白の振袖、あやの帯、くれない長襦袢ながじゅばん、胸に水晶の数珠じゅずをかけ、襟に両袖を占めて、波の上に、雪のごとき竜馬りゅうめに乗せらる。およそ手綱の丈を隔てて、一人下髪さげがみの女房。旅扮装たびいでたち
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとどり結いたる下髪さげがみたけに余れるに、色くれないにして、たとえば翡翠ひすいはねにてはけるが如き一条ひとすじ征矢そやを、さし込みにて前簪まえかんざしにかざしたるが、瓔珞ようらくを取って掛けしたすきを、片はずしにはずしながら
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)