下足番げそくばん)” の例文
君江はそのまま表二階の方へ行きかけると、階段の下から下足番げそくばんをしている男ボーイが、「君江さん、電話です。」としきりに呼んでいる声が聞えた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
慶応けいおう生れの江戸えど天下の助五郎すけごろう寄席よせ下足番げそくばんだが、頼まれれば何でもする。一番好きなのは選挙と侠客きょうかくだ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
前垂まへだれがけの半纏着はんてんぎ跣足はだし駒下駄こまげた穿かむとして、階下かいかについ下足番げそくばん親仁おやぢのびをするに、一寸ちよつとにぎらせく。親仁おやぢ高々たか/″\押戴おしいたゞき、毎度まいどうも、といふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
加能氏が牛屋ぎゅうや下足番げそくばんをされたと云うのを何かで読んでいたので、よけいに心打たれたのでしょう。私はその頃新潮社から出ていた文章倶楽部くらぶと云う雑誌が好きでした。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
新温泉の出口へ飛んでいった彼は、下足番げそくばんに、今これこれの二人連れが帰らなかったかと聞いた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大工のみにかぎらず、無尽講むじんこうのくじ、寄せ芝居の桟敷さじき下足番げそくばんの木札等、皆この法を用うるもの多し。学者の世界に甲乙丙丁の文字あれども、下足番などには決して通用すべからず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ことしの十月十三日の午後彼は上野へ出かける途中で近所の某富豪の家の前を通ったら、玄関におおぜいの男女のはき物やこうもりがさが所狭く並べられて、印絆纏しるしばんてん下足番げそくばんがついていた。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこの下足番げそくばんの客を呼ぶ声が高い調子であるには驚かされたと笑った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
表口では下足番げそくばんの男がその前から通りがかりの人を見て、らっしゃい、入らっしゃいと、腹の中から押出すような太い声を出して呼びかけている。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人間にんげんうまでにりませずば、表向おもてむ貴下あなたのおともをいたしまして、今夜こんやなんぞ、たとひ對手あひて藝者げいしやでも、御新姐樣ごしんぞさまには齋檀那ときだんな施主方せしゆがた下足番げそくばんでもしませうものを、まつた腑甲斐ふがひない
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)