三宅坂みやけざか)” の例文
電車が、赤坂見附から三宅坂みやけざか通り、五番町に近づくに従って、信一郎の眼には、葬場で見た美しい女性の姿が、いろいろな姿勢ポーズを取って、現れて来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
冬木刑事の同僚で先輩である沖田おきた刑事はまるで元気のない歩調あしどりで、半蔵門はんぞうもんから三宅坂みやけざかのほうへ向いて寒い風に吹かれながら濠端ほりばたをとぼとぼと歩いていた。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
三宅坂みやけざかの方面から参謀本部の下に沿って流れ落ちる大溝おおどぶは、裁判所の横手から長州ヶ原の外部に続いていて、むかしは河獺かわうそが出るとか云われたそうであるが
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
叛乱はんらんに参加したのは、近衛歩兵このえほへい第三連隊・歩兵第一、第三連隊・市川野戦砲やせんほう第七連隊などの将兵の一部で、三宅坂みやけざか桜田門さくらだもんとらもん赤坂見附あかさかみつけの線の内側を占拠せんきょ
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それでも終電車に乗るを得て、婦人は三宅坂みやけざかで下りて所縁しょえんの家へ、余は青山で下りて兄の家に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
眞夏まなつ三宅坂みやけざかをぐん/\あがらうとして、車夫わかいしゆひざをトンとくと蹴込けこみをすべつて、ハツとおも拍子ひやうしに、車夫わかいしゆ背中せなかまたいで馬乘うまのりにまつて「怪我けがをしないかね。」は出來できい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三宅坂みやけざかの停留場は何の混雑もなく過ぎて、車はこぶだらけに枯れた柳の並木の下をば土手に沿うて走る。往来おうらいの右側、いつでも夏らしくしげった老樹の下に、三、四台の荷車が休んでいる。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いま思うと私の生れたのは麹町平河町だというから、あれはきっと三宅坂みやけざかと赤坂見附との間ぐらいの見当になるだろう。そうとすると、私の生父の墓は青山か千駄ヶ谷あたりにあるのだろう。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
三宅坂みやけざかへんを一と周りして日比谷ひびや映画劇場へ着けた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、美奈子の乗った九段両国行の電車が、三宅坂みやけざかに止まったとき、運転手台の方から、乗って来る人を見たとき、美奈子は思わずその美しい目をみはった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
四谷新宿へ突抜けの麹町こうじまちの大通りから三宅坂みやけざか、日比谷、……銀座へ出る……歌舞伎座の前を真直まっすぐに、目的めあて明石町あかしちょうまでと饒舌しゃべってもいい加減の間、町充満いっぱい、屋根一面、上下うえした、左右、縦も横も
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十時を過ぎたお濠端ほりばたやみを、瑠璃子を乗せた自動車を先頭に、美奈子みなこを乗せた自動車を中に、召使達の乗った自動車を最後に、三台の自動車は、またたく裡に、日比谷ひびやから三宅坂みやけざか
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)