一身いっしん)” の例文
人は境遇に支配されるものであるということだが、自分は僅かに一身いっしんを入るるに足る狭い所へ横臥して、ふと夢のような事を考えた。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「やあ、君のことかね。いま、向こうの洞穴のなかで、帆村君から聞いてきたよ、僕一身いっしんのため、まことにすまないことをした」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや若様わかさま、雷がまいりましたせつ手前てまえ一身いっしんにおんわざわいをちょうだいいたします。どうかご安心あんしんをねがいとうぞんじます」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
文「ふうむ、そうか、そりゃくない話だ、そういう訳ならく申す文治が一身いっしんに引受けて、お役人におわびをして見ようから、まア暫く静かにして下さい」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとえ、才蔵さいぞう一身いっしんに一嫉視しっしはのこっても、のちに現出げんしゅつしたような、意外いがいな大事にはならなかったであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俗にいう武士の風上かざかみにも置かれぬとはすなわちわが一身いっしんの事なり、後世子孫これを再演するなかれとの意を示して、断然だんぜん政府の寵遇ちょうぐうを辞し、官爵かんしゃく利禄りろくなげう
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
郷里の両親らは福田が渡韓の事を聞きて彼を郷里に呼び返すことのいよいよかたきをうれい、その極高利貸こうりかしをして、福田が家資分産かしぶんさんの訴えを起さしめ、かくして彼の一身いっしんしば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
以上するところは、皆予が一身いっしん一箇いっこの事にして、他人にこれをしめすべきものにあらず。またこれをしるすとも、予が禿筆とくひつ、その山よりもたかく海よりもふかき万分の一ツをもいいつくすことあたわず。
妾らここに見るあり曩日さきに女子工芸学校を創立して妙齢の女子を貧窶ひんるうちに救い、これにさずくるに生計の方法を以てし、つねさんを得て恒の心あらしめ、小にしては一身いっしんはかりごとをなし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
はからずも妾が自活のみちたる学舎は停止せられて、東上するの不幸におちいり、なお右の如き種々の計画にあずかりて、ほとんど一身いっしんを犠牲となし、はては身の置き所なき有様とさえなりてよりは
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)