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ぢしよ
さへ
取りあげもせず
錦野が
懇望恰もよし
彼れは
有徳の
醫師なりといふ
故郷某の
地には
少からぬ
地所を
つい
此間迄は
疎らな
杉垣の
奧に、
御家人でも
住み
古したと
思はれる、
物寂た
家も
一つ
地所のうちに
混つてゐたが、
崖の
上の
坂井といふ
人が
此所を
買つてから、
忽ち
萱葺を
壞して、
杉垣を
引き
拔いて
されども
我れは
横町に
生れて
横町に
育ちたる
身、
住む
地處に
龍華寺のもの、
家主が
長吉が
親なれば、
表むき
彼方に
背く
事かなはず、
内々に
此方の
用をたして、にらまるゝ
時の
役廻りつらし。