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すうひやく
草がくれの
艫に、
月見草の
咲いた、
苫掛船が、つい
手の
屆くばかりの
處、
白砂に
上つて
居て、やがて
蟋蟀の
閨と
思はるゝのが、
數百一群の
赤蜻蛉の、
羅の
羽をすいと
伸し、すつと
舞ふにつれて、サ
弦月丸は
萬山の
崩るゝが
如き
響と
共に
左舷に
傾斜いた。
途端に
起る
大叫喚。
二百の
船員が
狂へる
甲板へ、
數百の
乘客が
一時に
黒雲の
如く
飛出したのである。
『
此處です。』と
一言を
殘して、
先づ
鐵門を
窬つた、
私もつゞいて
其中に
入ると、
忽ち
見る、
此處は、
四方數百間の
大洞窟で、
前後左右は
削つた
樣な
巖石に
圍まれ、
上部には
天窓のやうな