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いでゆき
跡に殘して
出行けり是より家内も夫々に休み座敷々々も一同に
深々と
更渡り聞ゆるものは
鼾の聲ばかりなり然るに彼町人體の男は家内の
寢息を
一年二月のはじめ
主人は朝より用ある所へ
出行しが、其日も
已に
申の頃なれど
皈りきたらず。
よし
山賤にせよ
庭男にせよ、
我れを
戀ふ
人世に
憎くかるべきか、
令孃の
情緒いかに
縺れけん、
甚之
助母君のもとに
呼ばれ、
此返事を
聞く
間なく、
殘り
惜しげに
出行たるあとにて、
玉の
腕に
此文を
抱き
ず
出行たり元より足も達者にて一日に四十里づつ
歩行珍しき若者なれば程なく松の尾と
云宿迄來懸りしに最早
疾日は暮て
戌刻頃とも思ひしゆゑ夜道を
して廻り場へ
出行けり
跡には七助お梅に
對ひ
所詮其方も旦那は
嫌なるべし
我取持せん事も
骨折損出來ぬ時は
却つて
首尾惡し然らば其方には少しも早く此處を