しづか)” の例文
旧字:
が、瑠璃子が、さう声をかけた瞬間、今迄しづかであつた父が、俄に立ち上つて、何かをしてゐるらしい様子が、アリ/\と感ぜられた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
古ぼけた葭戸よしどを立てた縁側えんがはそとには小庭こにはがあるのやら無いのやらわからぬほどなやみの中にのき風鈴ふうりんさびしく鳴り虫がしづかに鳴いてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
老人の乞食が附近の物寂びた家の階段に腰を据ゑて帽をしづかに差出すのもうるさくなかつた。二人の画家は翌日再び来てこの塔の正面を描いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
インガルスとは打つて変つた肥えた男で、診察のひま/\には、しづかな書斎でエマアソンの論文を読むのが何よりも好きであつた。
従類じうるゐ眷属けんぞくりたかつて、げつろしつさいなむ、しもと呵責かしやく魔界まかい清涼剤きつけぢや、しづか差置さしおけば人間にんげん気病きやみぬとな……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
誠にしづまりかへつて兵士へいしばかりでは無い馬までもしづかにしなければいかないとまうところが、馬は畜生ちくしやうの事で誠に心ない物でございますから、じれつたがり
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
打惑うちまどひてりかねたる彼の目前まのあたりに、可疑うたがはしき女客もいまそむけたるおもてめぐらさず、細雨さいうしづか庭樹ていじゆちてしたたみどりは内を照せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勿躰もつたいなき罪は我が心よりなれど、桜町の殿といふおもかげなくば、胸の鏡に映るものもあらじ。罪は我身わがみか、殿か、殿だになくは我が心はしづかなるべきか。いな、かゝる事は思ふまじ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
代助はへいもとせて、じつと様子をうかゞつた。しばらくは、何のおともなく、いへのうちは全くしづかであつた。代助はもんくゞつて、格子のそとから、たのむと声をけて見様かと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うちの中には新しいよいにほひのするわらが一杯しいてありました。風ははいらないし、暖くて、その上しづかで、お猫さんとお黒さんは思はず、藁の中にもぐり込んで、寝てしまひました。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
治兵衛梅川などわが老畸人の得意の節おもしろく間拍子とるに歩行かちも苦しからず、じやの滝をも一見せばやと思しが、そこへもおりず巌角にいこひて、清々冷々の玄風げんぷうを迎へ、たいしづかに心のどかにして
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
学士社会のあがれる際などならぬはなし、夜更け、人定まりて、しづかにおもへば、我れはむかしの我にして、家はむかしの家なるものを、そも/\何をたねとしてか、うき草のうきしづみにより
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
我こそ義経卿の御情を受けししづかと申すもの也、君の御後をしたひ、是まで来りしが、附添ひし侍は道にて敵の為にうたれぬ、我も覚悟を極め懐剣に手をかけしが、いやいや何とぞして命のうちに
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木々きゞみなぬとにはに、ひとりしづか
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
みんなしづかにゐなけりやあなほらないよ
六四松の尾の峯しづかなるあけぼの
ゆめしづかなるはるの日の
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しづかな静な初夏はつなつ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
つりの帰りらしい小舟こぶねがところ/″\のやうに浮いてゐるばかり、見渡みわた隅田川すみだがはは再びひろ/″\としたばかりかしづかさびしくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ドアしづかに押し開けられると、一度見たことのある少年が、名刺受の銀の盆を、手にしながら、笑靨ゑくぼのある可愛い顔を現した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
言ひ伝へによると、白拍子しらびやうししづかが母の磯禅師いそのぜんじはこゝに住むでゐたのださうで、禅師の血統ちすぢはその後も伝はつてゐるが、うまれる娘は皆醜婦揃すべたぞろひである。
美女たをやめまたかぞへて、鼓草たんぽゝこまつて、格子かうしなかへ、……すみれはないろけて、しづか置替おきかへながら、莞爾につこ微笑ほゝゑむ。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひようむなししづかにして高楼にのぼり、酒を買ひ、れんを巻き、月をむかへてひ、酔中すいちゆうけんを払へばひかりつきを射る」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
エジツが縄をゆるながら耳をぢつとすまして「それ、釣瓶つるべが今水に着きました」としづかに言ふ時、底の底でかすかに紙の触れる様な音がした。釣瓶つるべが重いので僕も手を添へて巻上げた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
へえ、よろしうございます。先「エー御免下ごめんください、おたのまうします。トしづか開戸ひらきどけなければいかない。小「へえー。先「エーおたのまうします/\。小僧こぞうは、ツト椅子いすはなれて小 ...
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれは又三千代をたづねた。三千代は前日ぜんじつの如くしづかいてゐた。微笑ほゝえみ光輝かゞやきとにちてゐた。春風はるかぜはゆたかに彼女かのをんなまゆを吹いた。代助は三千代がおのれを挙げて自分に信頼してゐる事を知つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しづかにうごく星くづを
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しづかにをどる
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
まるい月は形が大分だいぶちひさくなつて光があをんで、しづかそびえる裏通うらどほりのくら屋根やねの上、星の多い空の真中まんなかに高く昇つてた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼が、軽いおどろきを感じて、見上げると、階段の中途をしづかに降りかかつてゐるのは、今日の花形スタアなるアンナ・セザレウ※ッチと瑠璃子夫人とだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
た※渺々べう/\としてはてもない暗夜やみなかに、雨水あめみづ薄白うすじろいのが、うなぎはらのやうにうねつて、よどんだしづかなみが、どろ/\と線路せんろひたしてさうにさへおもはれる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先づ衣桁いこうに在りける褞袍どてらかつぎ、夕冷ゆふびえの火もこひしく引寄せてたばこふかしゐれば、天地しづか石走いはばしる水の響、こずゑを渡る風の声、颯々淙々さつさつそうそうと鳴りて、幽なること太古の如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何時いつの間にか月がさして、練絹ねりぎぬを延べた様なロアル河はぐ前に白く、其れを隔てたツウルの街はたゞ停車場ステエシヨン灯火あかりを一段きはやかに残しただけで、外は墨を塗つた様に黒くしづかに眠つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あしたのことしづかなり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「悪徒の友なるいとしきは狼の歩みしづかかに共犯人かたうどの如く進み来りぬ。いと広き寝屋ねやの如くに、空おもむろとざさるれば心焦立いらだつ人はたちまち野獣の如くにぞなる……」
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
貴僧あなた、こゝからりるのでございます、すべりはいたしませぬがみちひどうございますからおしづかに、)といふ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
運動場うんどうばへ出て来ても我々われ/\の仲間にはいつた事などは無い、超然てうぜんとしてひとしづかに散歩してるとつたやうなふうで、今考へて見ると、成程なるほど年少詩人ねんせうしじんつた態度たいどがありましたよ
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そよ吹く風は丁度たけなはなる春のの如くさわやかにしづかに、身も溶けるやうにあたゝかく、海上の大なる沈静が心を澄ませる。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みづしづかときおほきつのりうそこしづんだやうで、かぜがさら/\とときは、胴中どうなかつてみづおもてうろこはしるで、おしろ様子やうすのぞけるだから、以前いぜんぬま周囲まはり御番所ごばんしよつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
に入りて四辺あたりしづかになるにつれ、お村が悲喚ひくわんの声えて眠りがたきに、旗野の主人も堪兼たまりかね、「あら煩悩うるさし、いで息の根を止めむず」と藪の中に走入はしりいり、半死半生の婦人をんな引出ひきいだせば
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むかう河岸かししづかないゝうちがあるわ。わたしたちなら一時間じかん百円ひやくゑんでいゝのよ。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
此折このをりからした廊下らうか跫音あしおとがして、しづか大跨おほまた歩行あるいたのがせきとしてるからく。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道子みちこ小岩こいは売笑窟ばいせうくつにゐたときからをとこにはなんふわけもなくかれる性質たちをんなで、すこみち加減かげんがわかるやうになつてからは、いかにしづかばんでもとまきやくのないやうなよるはなかつたくらい。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
みづうみ殿堂でんだうこゝろざす、曲折きよくせつかぞふるにいとまなき、このなが廊下らうかは、五ちやうみぎれ、十ちやうひだりまがり、二つにわかれ、三つにけて、次第々々しだい/\奥深おくふかく、はやきはとなり、しづかなるはふちとなり、はしるははやせとなり
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)