“歯(は)” の例文
旧字:齒
すると鬼(おに)は顔(かお)じゅう口にして、ぎえッ、ぎえッ、ぎえッと、さもおもしろそうに笑(わら)いました。そうして、大きな歯(は)をむき出(だ)したまま
鬼六 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
恐(おそ)ろしい歯(は)をむきだした、茶と白のブチ犬が、アシのあいだをつき進んでくるのを見ますと、それこそ命(いのち)のちぢまる思いをしました。
セセラ笑って、ひっ返した早足(はやあし)の燕作(えんさく)、歯(は)がみをする竹童の胸板(むないた)に足をふんがけて、つかんでいる般若丸(はんにゃまる)を力まかせに引ったくった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此返事(このへんじ)を聞(き)いて、むつと腹(はら)が立(た)つた。頭巾(づきん)の下(した)に歯(は)を剥出(むきだ)して、血色(けつしよく)の好(い)い頸元(えりもと)に伸(の)し掛(かゝ)ると向(むかう)は後退(あとすざり)もしない。また質(き)いて見(み)た。
「否(いいえ)、」とお母(かあ)さんが言(い)った。「わたしは胸(むね)が苦(くる)しくって、歯(は)がガチガチする。それで脈(みゃく)の中(なか)では、火(ひ)が燃(も)えているようですわ。」
其(そ)の声(こゑ)が、五位鷺(ごゐさぎ)の、げつく、げつくとも聞(き)こえれば、狐(きつね)の叫(さけ)ぶやうでもあるし、鼬(いたち)がキチ/\と歯(は)ぎしりする、勘走(かんばし)つたのも交(まざ)つた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
縁起(えんぎ)でもないことだが、ゆうべわたしは、上下(じょうげ)の歯(は)が一本(ぽん)残(のこ)らず、脱(ぬ)けてしまった夢(ゆめ)を見(み)ました。情(なさけ)ないが、所詮(しょせん)太夫(たゆう)は助(たす)かるまい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ぴちぴちはねている生(い)き物(もの)を自分(じぶん)の手(て)でしっかり押(お)さえつけて、頭(あたま)がらガリガリとかじるのにくらべては、歯(は)ごたえがなかった。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
草の上へねころんでふざけると、しろ公は夢中(むちゅう)になりすぎて、林太郎の手や足に歯(は)あとがのこるほどかみつきます。そんなとき
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私(わたくし)の祖父(じじ)の年齢(とし)でございますか——たしか祖父(じじ)は七十余(あま)りで歿(なくな)りました。白哲(いろじろ)で細面(ほそおもて)の、小柄(こがら)の老人(ろうじん)で、歯(は)は一本(ぽん)なしに抜(ぬ)けて居(い)ました。
歯(は)のない口にきゅうに奥歯(おくば)がはえたような気がするほど若がえった口調(くちょう)だった。治安維持法というものを、彼女はよく知らない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そして鋭(するど)い歯(は)をむき出(だ)しながら子家鴨(こあひる)のそばに鼻(はな)を突(つ)っ込(こ)んでみた揚句(あげく)、それでも彼(かれ)には触(さわ)らずにどぶんと水(みず)の中(なか)に跳(と)び込(こ)んでしまいました。
まま母のものいいは、歯(は)にもののはさまってるような心持ちに聞こえるけれど、やさしい老人はそのうえ追及(ついきゅう)もしなかった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あとから「まあ、左(さ)うです」と答へた。女は全く歯(は)を隠した。静かに席を立つて、窓の所へ行つて、外面(そと)を眺め出(だ)した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その家はちょうど廓の外郭に沿って流れているお歯(は)ぐろ溝(どぶ)に接していたので、外との往来には便利だったのである。私も通学の際はそこを利用した。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
本線(ほんせん)シグナルつきの電信柱(でんしんばしら)はキリキリ歯(は)がみをしながら聞いていましたが、すっかり聞いてしまうと、さあ、まるでばかのようになってどなりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
アンドレイ、エヒミチはうんざりして、長椅子(ながいす)の上(うえ)に横(よこ)になり、倚掛(よりかかり)の方(ほう)へ突(つい)と顔(かお)を向(む)けたまま、歯(は)を切(くいしば)って、友(とも)の喋喋(べらべら)語(しゃべ)るのを詮方(せんかた)なく聞(き)いている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
が、武士と船頭の間には人がこみあつてゐましたので、いまいましさうに歯(は)をならしただけで、がまんしました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
農夫(のうふ)は時の間(ま)に六十の母、三十の妻、七ツの子を狼の牙(きば)にころされ、歯(は)がみをなして口をしがり、親子ふたり、くりこといひつゝ声をあげてなきゐたり。
「ちぇっ、あのごろつきどもめ!」と、くいしばった歯(は)のあいだからはきだすように小声でそうつぶやくと、そのままわたしのそばを通りすぎて行きました。
歯(は)をくいしばってがまんしたが、うめき声はひとりでに高くなり、ついにぼくは気絶(きぜつ)してしまったんだ
彼は無我夢中で爪を噛(か)んで、小伜(こせがれ)めにだまされたか、口惜(くや)しや口惜しやと歯(は)がみをしていたという。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今の耳にも替(かわ)らずして、直(すぐ)其傍(そのそば)なる荒屋(あばらや)に住(すま)いぬるが、さても下駄(げた)の歯(は)と人の気風は一度ゆがみて一代なおらぬもの、何一(ひ)トつ満足なる者なき中にも盃(さかずき)のみ欠かけず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かれはジョリクールに二さじ三さじ飲ませようと試(こころ)みたけれど、小ざるは歯(は)を食いしばっていた。
思(おも)ひいつてこういはれた言葉(ことば)に、曾(かつ)ておもひもしらぬ感激(かんげき)をおぼえて、私はしみ/″\とよそのおばさんをみました。歯(は)を黒(くろ)くそめて眉(まゆ)の青(あほ)い人(ひと)で、その眼(め)には泪(なみだ)があつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
櫛(くし)の歯(は)が引っかかる処を少し力(ちから)を入れて引くとゾロゾロゾロゾロと細い髪(かみ)が抜けて来る。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
北の岬(みさき)を北岬という、南の岬を南岬という、犬の歯(は)のように出入しているいくたの岬は、みんな本国を記念に、日本岬、アメリカ岬、フランス岬、ドイツ岬、イタリア岬、支那岬
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
愛(あい)するお前(まへ)の父(ちゝ)、お前(まへ)の母(はゝ)、お前(まへ)の妻(つま)、お前(まへ)の子(こ)、そして多(おほ)くのお前(まへ)の兄妹(きやうだい)たちが、土地(とち)を逐(お)はれ職場(しょくば)を拒(こば)まれ、飢(う)えにやつれ、歯(は)を喰(く)い縛(しば)り、拳(こぶし)を握(にぎ)って、遠(とほ)く北(きた)の空(そら)に投(な)げる憎(にく)しみの眼(め)は
実際この櫛(くし)の歯(は)式の竹の稲扱が出て来て、在来の簡単な二本の扱箸(こきばし)にかわった時の方が、後(のち)にそれ自身が鉄製のものにかわられた時よりも、はるかに農民に与えた印象は強烈であったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
他の友達は、下駄(げた)の歯(は)になって、泥濘(どろ)の路石ころ路を歩いて居る。他の一人は鉋(かんな)の台になって、大工の手脂(てあぶら)に光って居る。他の友達は薪(まき)になって、とうに灰になった。ドブ板になったのもある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
気力次第に弱(よ)わり、両眼自ら見えずなりたれば我今これまでと思いて、自ら眼(まなこ)を閉(と)じなばあるいはこれ限(かぎり)なるべし、力の続かんまではと心励まし、歯(は)がみをなし、一生懸命吹雪に向いて見張(みは)りしため
私は、何だか歯(は)ぎしりしながら見ていたような気がするんです
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
マサちゃんは歯(は)をくいしばって、進(すす)んでいきました。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「時」の老骨(ろうこつ)、きしきしと、数(かず)噛(か)む音(おと)の歯(は)ぎしりや
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
歯(は)をくひあてゝ滅(ほろ)ばゞや
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
歯(は)せせる女を
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
歯(は)ぎしりを噛(か)んだふたりの従僧(じゅうそう)、網代笠(あじろがさ)をかなぐり捨(す)て、大刀をふりかぶって、主僧(しゅそう)の身をまもり、きたるをうけて槍(やり)や刀をうけはらった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事(こと)に依(よ)つたら、世(よ)の人(ひと)たちの有(も)つてゐる主(しゆ)の御血汐(おんちしほ)で、この身(み)が癒(なほ)るかも知(し)れぬ。血(ち)を思(おも)ふことも度々(たびたび)だ。この歯(は)なら咬付(かみつ)ける。真白(まつしろ)の歯(は)だ。
また、美(うつく)しい女(おんな)らの顔(かお)や、唇(くちびる)や、そして、白(しろ)い歯(は)を光(ひか)らしながら歌(うた)った、その土地土地(とちとち)の古(ふる)い唄(うた)をどんなになつかしく思(おも)ったでありましょう。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いくら気(き)ばかりあせっても、矢種(やだね)がなくっては戦(いくさ)はできません。残念(ざんねん)ながら味方(みかた)が負(ま)けいくさかと田村麻呂(たむらまろ)も歯(は)ぎしりをしてくやしがりました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
世(よ)には、清(きよ)らかな白歯(しらは)を玉(たま)と云(い)ふ、真珠(しんじゆ)と云(い)ふ、貝(かひ)と言(い)ふ。……いま、ちらりと微笑(ほゝえ)むやうな、口元(くちもと)を漏(も)るゝ歯(は)は、白(しろ)き卯(う)の花(はな)の花片(はなびら)であつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
セーサルはこれを聞きますと、にくにくしそうに上(うわ)くちびるをむいて、歯(は)を見せました。が、すぐに、ヤッローをはなしてやりました。そして
其所(そこ)で叮嚀(ていねい)に歯(は)を磨(みが)いた。彼(かれ)は歯並(はならび)の好(い)いのを常に嬉しく思つてゐる。肌(はだ)を脱(ぬ)いで綺麗(きれい)に胸(むね)と脊(せ)を摩擦(まさつ)した。彼(かれ)の皮膚(ひふ)には濃(こまや)かな一種の光沢(つや)がある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
農夫(のうふ)は時の間(ま)に六十の母、三十の妻、七ツの子を狼の牙(きば)にころされ、歯(は)がみをなして口をしがり、親子ふたり、くりこといひつゝ声をあげてなきゐたり。
「おれ海へ行って孔石(あないし)をひろって来るよ。」とタネリが云(い)いましたらおっかさんは太い縫糸(ぬいいと)を歯(は)でぷつっと切ってそのきれはしをぺっと吐(は)いて云いました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、忽(たちま)ち覚(おぼ)ゆる胸(むね)の苦痛(くつう)、膓(ちょう)の疼痛(とうつう)、誰(たれ)か鋭(するど)き鎌(かま)を以(もっ)て、刳(えぐ)るにはあらぬかと思(おも)わるる程(ほど)、彼(かれ)は枕(まくら)に強攫(しが)み着(つ)き、きりりと歯(は)をば切(くいしば)る。今(いま)ぞ初(はじ)めて彼(かれ)は知(し)る。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ところが、櫛(くし)の歯(は)が髪の毛のあいだにはいるかはいらないうちに、おそろしい毒が、姫の頭(あたま)にしみこんだものですから、姫はそのばで気をうしなってたおれてしまいました。
海蔵(かいぞう)さんは、腹(はら)も歯(は)もいたくありませんでした。のどから手(て)が出(で)るほど、お菓子(かし)はたべたかったのでした。しかし、井戸(いど)をつくるために、今(いま)までの習慣(しゅうかん)をあらためたのでありました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鉄漿(おはぐろ)も黒々(くろぐろ)と、今朝(けさ)染(そ)めたばかりのおこのの歯(は)は、堅(かた)く右(みぎ)の袂(たもと)を噛(か)んでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「歯(は)が痛(いた)いんだよ。急にいたみだしたんで、おおいてえ、いてえ」