)” の例文
多門の心にはこれまでになく寂漠せきばくとしたあるものが感じられ、その感じは刻々とさってゆくように思った。多門は胴ぶるいをした。
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「なんの、ばかばかしい。なんとか名を付けておもしでも取ろうとするのは駕籠屋の癖だ」と、外記は直ぐに思い直して笑った。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
詰侍つめざむらい部屋へや長屋ながやにいる常備じょうび武士ぶしを、番士ばんしは声をからして起しまわる。たちまち、ものとってけあつまるてきはかずをすばかり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに何百キロ何千キロという遠方えんぽうになると、どんなに電力をしても聴えない。これは可笑おかしいというのでいろいろ調べてみました。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
ためにくろさにつやした烏帽子岩えぼしいはあたまに、を、いまのいろなみにして、一すぢ御占場おうらなひばはうに、烏帽子岩えぼしいはむかつて、一すぢ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、水かさがしていたりして、ひょっとしたはずみには、小さな子どもでも、舟をみずうみにのりだすことができるものです。
しかし本來ほんらい耐震性たいしんせい木造建築もくざうけんちくに、特別とくべつ周到しうたう精巧せいかうなる工作こうさくほどこしたのであるから、自然しぜん耐震的能率たいしんてきのうりつすのは當然たうぜんである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
旋頭歌せどうかといふものに發達はつたつしてくと同時どうじに、片歌かたうた自身じしんが、短歌たんかつくげるように、次第しだいに、おんかずし、内容ないよう複雜ふくざつになつてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
いけみずしぬるんできて、ひかりがそのおもてらすようになりましたので、水草みずくさは、なつかしい太陽たいようをはじめてあおぐことができました。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女かのじよはその苦痛くつうたへられさうもない。けれどもくろかげかざしてたゞよつて不安ふあんは、それにもして彼女かのぢよくるしめるであらう。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
わすられぬは我身わがみつみひととがおもへばにくきは君様きみさまなりおこゑくもいや御姿おすがたるもいやればけばさるおもひによしなきむね
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
空は銀色ぎんいろの光をし、あまり、もずがやかましいので、ひばりもしかたなく、その空へのぼって、少しばかり調子ちょうしはずれの歌をうたいました。
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
子供等こどもら大小だいせうことなつたあは菱餅ひしもちが一つは一つとかみうへ分量ぶんりやうしてまれるのをたのしげにして、自分じぶんかみから兩方りやうはうとなりかみからとほくのはうから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
して、貴方、片思かたおもひに思つてゐる者の心の中はどんなに切ないでせうか、間さん、私貴方を殺して了ひたいと申したのは無理で御座いますか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてこんな有様ありさまはそれから毎日まいにちつづいたばかりでなく、しそれがひどくなるのでした。兄弟きょうだいまでこのあわれな子家鴨こあひる無慈悲むじひつらあたって
床上しようじよう振動しんどう地面ぢめんのものゝ三割さんわりしなることが普通ふつうであるけれども、木造もくぞう二階建にかいだて階上かいじよう三倍程度さんばいていどなることが通常つうじようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あだかもはるゆきれてかえってびるちから若草わかくさのように、生長しとなりざかりの袖子そでこ一層いっそういきいきとした健康けんこう恢復かいふくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かく氣味きみわることだとおもつてうちに、あやしふねはだん/\と速力そくりよくして、わが弦月丸げんげつまる左方さはうかすめるやうに※去すぎさとき
うろにのぞんでたきたてしに熊はさらにいでず、うろふかきゆゑにけふりおくいたらざるならんと次日つぎのひたきゞし山もやけよとたきけるに
彼女が一口拘泥るたびに、津田は一足彼女から退しりぞいた。二口拘泥れば、二足退しりぞいた。拘泥るごとに、津田と彼女の距離はだんだんして行った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故に前年はゆませて天下の神宮をととのへ、去歳こぞあまねく天下をして釈迦牟尼仏しやかむにぶつの尊像高一丈六尺なるもの各一鋪いちふを造り並に大般若経一部を写さ令めき。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
あらそふて之をしよくす、探検たんけん勇気ゆうき此に於てさうさうきたる、相謂て曰く前途ぜんと千百の蝮蛇まむし応に皆此の如くなるべしと。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
男気おとこけのない奥庭おくにわに、次第しだいかずした女中達じょちゅうたちは、おれん姿すがた見失みうしなっては一大事だいじおもったのであろう。おいわかきもおしなべて、にわ木戸きどへとみだした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいやしに思わせ、遠くで吠え立てる家護やもりの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
兵庫県下なら、汽車へ乗らずとも電車で行けるから、東京の原籍地へ戻るよりはいくらかしだと私は喜んだ。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美女が化粧よそおえば一層いっそうにおいをし醜女がとりつくろえば、女性らしい苦労が見えて、その醜なのが許される。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それじきは、いろし、ちからをつけ、いのちぶ。ころもは、さむさをふせぎ、あつさえ、はぢをかくす。人にものをする人は、人のいろをまし、ちからをそへ、いのちぐなり。
あめ次第しだいつよくなつたので外面そと模樣もやう陰鬱いんうつになるばかり、車内うち退屈たいくつすばかり眞鶴まなづる巡査じゆんさがとう/\
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
すなはち一日のおくれとなるゆへ、四年目には一日して其間そのあひだ地球ちきうはしらしめ、丁度ちやうどもとところ行付ゆきつくつなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
また山をじ川をわたり、世の塵紛じんふんを忘れて神洞しんどう仙窟せんくつに遊ぶがごとく、おおい体力たいりょくの重量をすに至れり。
これには自分も全くうんざりしてしまった。真逆まさか祖母の記憶力がここまで消耗していようとは夢にも思わなかったが、併し謡わないよりはしだと思って又一番あい勤めた。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
足下きみ同情どうじゃう多過おほすぎるわし悲痛かなしみに、たゞ悲痛かなしみへるばかり。こひ溜息ためいき蒸氣ゆげけむりげきしてはうち火花ひばならし、きうしてはなみだあめもっ大海おほうみ水量みかさをもす。
なほ人智じんちがいよ/\發達はつたつ人口じんこうがどん/\すにつれて、最後さいごには奧山おくやままでもつて家屋かおく橋梁きようりよう器具きぐ機械きかい汽車きしや電車でんしや鐵道てつどう枕木まくらぎ電信でんしん電話でんわはしらといふように
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
美しい娘のたのみはだんだんいじらしさをして、お医者さんの心にしみわたり、老人は老人で、じぶんの命をたすけてくだされば、娘をさしあげますと言ってきかないので
りの玄竹げんちく相手あひてに、けるのをわすれてゐた但馬守たじまのかみは、いくんでもはぬさけに、便所べんじよへばかりつてゐたが、座敷ざしきもどたびに、かほいろあをみがしてくるのを
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
讀書どくしよいたづらに人の憂患わづらひすのみのなげきは、一世いつせい碩學せきがくにさへあることだから、たん安樂あんらくといふ意味から云ツたら其もからうけれど、僕等はとても其ぢや滿足出來ないぢやないか。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その声は一だんごとに力をし、泣くがように、むせぶがようにひびきわたりました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
もともと二人ふたりむべき境涯きょうがいちがっているのであるから、無理むりにそうした真似まねをしても、それは丁度ちょうどとりうおとが一しょすまおうとするようなもので、ただおたがいくるしみをすばかりじゃ。
おわんのふね毎日まいにちすこしずつ淀川よどがわのぼって行きました。しかしふねちいさいので、すこかぜつよいたり、あめってみずかさがしたりすると、ふねはたびたびひっくりかえりそうになりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
君が医科を卒業したとて人格の上に別段に光をさぬごとくに、卒業しないとてさらに人格に損するところはない。だから、君の一身に取って医科に学ぶということはきわめて小なる問題だ。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
始はそれもさばかりに、え堪へまじいとは覚えなんだが、やがて河の真唯中へさしかかつたと思ふほどに、白衣のわらんべが重みはいよいよいて、今はあたか大磐石だいばんじやくを負ひないてゐるかと疑はれた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
巡査の巡回の回数をして、充分静子を保護するという約束をして呉れた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お旗本のめかけに上げては、私の心持が済みませんが、それでもやくざ者の配偶つれあいにするよりはしでございます。伊賀井様のお望み通り、急に娘を奉公に差上げる気になったのは、そんなことからで——
ねん此方このかた地方自治體ちはうじちたいはやう/\ゆたかになつたので、其管下そのくわんか病院びやうゐん設立たてられるまで、年々ねん/\三百ゑんづつを町立病院ちやうりつびやうゐん補助金ほじよきんとしてこととなり、病院びやうゐんではれがため醫員いゐん一人ひとりことさだめられた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
終了しまうとお光の方に至り萬事の相談さうだん買物かひものなんどに深切しんせつつくせば親子は喜び親類しんるゐがはりに當日はお金も其所のせきのぞみよろしくたのむと此者の衣類いるゐおびこしらへやりしにお金はいよ/\嬉しさ自慢じまんたらだら此事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せんを取られるんでせう。」
素材 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
屋根やねいても、いたつても、一雨ひとあめつよくかゝつて、水嵩みづかさすと、一堪ひとたまりもなく押流おしながすさうで、いつもうしたあからさまなていだとふ。——
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうして、いままでよりか、みんなに一つ欲望よくぼうしたので、いつか、このひか銀貨ぎんかのためにあらそいがこらなければならなくおもわれたのでした。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
男の貞造が、そういってしりごみをしたので、お松とおしげもきゅうに、こわさがして、もう力を出す気がなくなった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ことにその泥岩そうは、川の水のすたんび、奇麗きれいあらわれるものですから、何ともえず青白くさっぱりしていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)