不安ふあん)” の例文
ほんとうに、平常へいぜいは、そんな不安ふあんかんじないほど、このへやのなか平和へいわで、おじょうさんのわらごえなどもして、にぎやかであったのです。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それがひとうように規則的きそくてきあふれてようとは、しんじられもしなかった。ゆえもない不安ふあんはまだつづいていて、えず彼女かのじょおびやかした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれどわたし如何どういふものか、それさはつてすこしもなく、たゞはじ喰出はみだした、一すぢ背負揚しよいあげ、それがわたし不安ふあん中心点ちうしんてんであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さうして、もしこの冒險ばうけん成功せいこうすれば、いま不安ふあん不定ふてい弱々よわ/\しい自分じぶんすくこと出來できはしまいかと、果敢はかないのぞみいだいたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その時分じぶん不安ふあん焦燥しょうそう無念むねん痛心つうしん……いまでこそすっかり精神こころ平静へいせいもどし、べつにくやしいとも、かなしいともおもわなくなりましたが
『いや、いや、如何どうかんがへても今時分いまじぶんあんなふねこの航路かうろ追越おひこされるはづはないのだ。』とる/\うち不安ふあん顏色いろあらはれてた。
と、さそはれたかれも、ぐら/\と地震なゐふるはかなかに、一所いつしよんでるもののやうなおもひがして、をかしいばかり不安ふあんでならぬ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれども、諭吉ゆきちは、あたらしい政府せいふ不安ふあんをもっていました。なぜなら、朝廷ちょうていは、まえから、くにをひらくことにはんたいしていたからです。
やう/\あきらかなかたちとなつて彼女かのぢよきざした不安ふあんは、いやでもおうでもふたゝ彼女かのぢよ傷所きずしよ——それは羞耻しうち侮辱ぶじよくや、いかりやのろひや
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
召使めしつかいは、不安ふあん心配しんぱいむねをいためながら、中庭なかにわにおりて、どうしてこの災難さいなんをのがれたものだろうかと、いっしょうけんめい考えていました。
だれ自分じぶんところたのではいか、自分じぶんたづねてゐるのではいかとおもつて、かほにはふべからざる不安ふあんいろあらはれる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きっと、まっさおなかおをしていたのにちがいありません。マレイは不安ふあんそうなわらいをかべてわたしの顔を見ていました。
あいちやんは心中しんちゆうすこぶ不安ふあんかんじました、たしかにあいちやんは女王樣ぢよわうさまとは試合しあひをしませんでしたが、何時いつ其時そのときるだらうと思つて居ました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「わたしをおどかそうとするのは、だれだね?」と、ムクドリはたずねながら、不安ふあんそうにはねをバタバタやりました。
べつ自分じぶんがそれについて弱味よわみつてないにしてもさ、ながあひだにはなんだか不安ふあんを感じてさうな氣持きもちがするね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
徳川家とくがわけ使者ししゃについてきたさむらい横顔よこがおをさしのぞくのも無礼ぶれいであるし、疑念ぎねんのあるものをやすやすと、主君の前へ近づけるのはなおのこと不安ふあんなはなし。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思って苦しい不安ふあんの日をこの先送らなければならなかった。わたしたちはみんなひじょうにのどがかわいていた。パージュが水を取りに行こうとした。
勘次かんじそのとき不安ふあん態度たいどでぽつさりと自分じぶんにはつた。かれすで巡査じゆんさ檐下のきしたつてるのを悚然ぞつとした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しばらくはまだいいけれど、さうなつてからいまのやうなのはあたしまつぴらだわ。だい一、こんなくらかたをしてゐて、さきさきどうなるかとおもふと不安ふあんぢやなくつて?
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
病人びやうにん不安ふあん室内しつないたゞよはしてゐたが、なにものをいひたさうに、K夫人ふじんうごはうつてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
少し気が落着おちついてくると、おそろしさと不安ふあんとが、前の二ばいになって自分のむねにおしよせてきた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
細君さいくん不安ふあんなりに同意どういして、その乳しぼりをおいてやることになった。牛舎ぎゅうしゃのほうでは親牛おやうし子牛こうしとをけて運動場うんどうじょうにだしたから、親牛も子牛もともによびあっていてる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たがひになんとなくつまらない、とりとめもない不安ふあん遣瀬やるせなさが、空虚くうきよこゝろつゝんでゐるやうであつた。二人ふたりいへにゐることがさびしく、よるになつてることがものたりなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
かくして最初さいしよ一分間いつぷんかんしのたならば、最早もはや不安ふあんおもふべき何物なにもののこさないはずであるが、たゞこれに今一いまひと解説かいせつして必要ひつようのあるものは、地割ぢわれにたいしてあやまれる恐怖心きようふしんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
(獨語のやうに)なりゃこそ彌〻いよ/\こゝろ不安ふあんになる。
松江しょうこうのおもてには、不安ふあんいろかげえがいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
軍楽ぐんがくくろ不安ふあんなだれ落ち、に入るとき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ものをいうのにも、ひとかおをじっとました。そのつきはやさしそうにえたけれど、なんとなく、不安ふあんかげ宿やどっていました。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたし自分じぶん不安ふあん苦痛くつううつたへたが、それかひはなく、このまゝ秘密ひみつにしてくれとつま哀願あいぐわんれて、此事このことは一そのまゝにはふむることにした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼女かのじよはその苦痛くつうたへられさうもない。けれどもくろかげかざしてたゞよつて不安ふあんは、それにもして彼女かのぢよくるしめるであらう。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
不安ふあんをりだし、御不自由ごふじいうまことにおどくまをねるが、近所きんじよけるだけでもみづりない。外町ほかまちかたへは、とつて某邸ぼうていことわつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
倦怠けんたい彼等かれら意識いしきねむりやうまくけて、二人ふたりあいをうつとりかすますことはあつた。けれどもさゝら神經しんけいあらはれる不安ふあんけつしておこなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だれ自分じぶんところたのではいか、自分じぶんたずねているのではいかとおもって、かおにはうべからざる不安ふあんいろあらわれる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
不安ふあんやら、心配しんぱいやら、おもしたばかりでもきまりのわるく、かおあかくなるようなおもいで、袖子そでこ学校がっこうへのみち辿たどった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしとしては内心ないしん多大ただい不安ふあんかんじながら、そうおこたえするよりほか詮術せんすべがないのでございました。
なんだんべ」勘次かんじはふつとかれ平生へいぜいかへらうとしていつも不安ふあんらしいみはつておつたをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
議員ぎゐんなんて連中れんちうでも、それだけひこんだら矢張やは多少たせう不安ふあんかんじるだらうかなア。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
花前の顔色には不安ふあんもなければ安心あんしんもない。主人は無意職むいしきに色をやわらげてことばかる
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
帽子屋ばうしや沈默ちんもくやぶりました。『何日いくにちだね?』とつてあいちやんのはう振向ふりむき、衣嚢ポケツトから時計とけいし、不安ふあんさうにそれをながめて、時々とき/″\つてはみゝところへそれをつてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いく時間かぎた。だんだん夜がふけるにしたがって、とりとめもない恐怖きょうふがわたしを圧迫あっぱくした。わたしは不安ふあんに感じたが、なぜわたしが、そう感じたのかわからない。なにをわたしはおそれているのか。
不安ふあんなものではありませんから」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不安ふあんいま、黒きはたして
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひめさまは、そのみちは、自分じぶんのきた時分じぶんとおったみちでないので、ほんとうに、故郷こきょうかえることができるだろうかと、不安ふあんおもわれましたが
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其以上それいじやうわたし詰問きつもんとほらぬ。とほらぬところくら不安ふあんかげたゞようてゐるのであるが、かげかげで、一わたし足迹そくせきるゝをゆるさぬのである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ふけて、ひとりつきも、たちまくらくなりはしないだらうか、眞赤まつかになりはしないかと、おなじ不安ふあんごした。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ昨夕ゆうべ御米およね散藥さんやくんでから以後いご時間じかんゆびつて勘定かんぢやうした。さうしてやうや不安ふあんいろおもてあらはした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼女かのぢよつとむ成長せいちやうたのしみすごした空想くうさうは、はからずもおそろしい不安ふあん彼女かのぢよむね暴露あばいつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
入口いりぐちには注連縄しめなわってあるので、悪魔あくま外道げどうたぐい絶対ぜったいはいることはできぬ。またたとえ何事なにごとおこっても、かみまなこはいつも見張みはっているから、すこしも不安ふあんかんずるにはおよばぬ……。
清潔きれいることは勘次かんじわるいことにはおもはなかつたが、いくらもない家財道具かざいだうぐすこしでもけられるのがふところでもさぐられるやう勘次かんじにはなんとなく不安ふあんねんおこされるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
糟谷かすやはいかれないともいえず、危険きけん意味いみあるつま下女げじょと子どもとにまかせてでるのはいかにも不安ふあんだし、糟谷かすやはとほうにれてしまった。おりよくもそこへ西田にしだがひょっこりはいってきた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)