魑魅ちみ)” の例文
いや、ここへ参上いたしました私めは、魑魅ちみでもなければ、人間でもありません。ふだんあなたが大事になさる黄金の精霊です。
魑魅ちみくはやすし」ではなく、お爺さんの描いた竜を毎日見ていると、本当にいてもよいような気がするほどだった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
夜になれば無数の巨幹はさながら魑魅ちみとなって人をおびやかし、星は簇葉をもれて冷たい木の実のようにみえる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「大丈夫鳴きます。あの鳴き声は昼でも理科大学へ聞えるくらいなんですから、深夜闃寂げきせきとして、四望しぼう人なく、鬼気はだえせまって、魑魅ちみ鼻をさいに……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、不斷ふだんだと、魑魅ちみ光明くわうみやうで、電燈でんとうぱつけて、畜生ちくしやうつぶてにして追拂おひはらふのだけれど、あかり覺束おぼつかなさは、天井てんじやうからいきけると吹消ふつけされさうである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
腥風せいふう一陣まき起こって、とっさに二つの命の灯を吹き消し去った手練でも知れるように、魔か魑魅ちみか、きゃつよほど、腕と腹ふたつながらに完璧の巧者に相違ない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔から山には魑魅ちみ、水には魍魎もうりょうがおると云われているが、明治二十年ごろの事であった。
死んでいた狒狒 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
魑魅ちみとか妖怪変化とかの跳躍するのはけだしこう云う闇であろうが、その中に深いとばりを垂れ、屏風や襖を幾重にも囲って住んでいた女と云うのも、やはりその魑魅の眷属けんぞくではなかったか。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕の同棲者の魑魅ちみ子は寝台に寝ころんで、華やかにひらいたくちびるから吐き出すレイマンの匂いで部屋中にエロテイィクな緑色のもやをつくりながら、僕のいつもの恋愛のテクニックを眺望しているんだ。
第二種(鬼神編)鬼神、魑魅ちみ魍魎もうりょう、妖神、悪魔、七福神、貧乏神
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
だからこれらの魑魅ちみがなす社会作用も恐るべきではあるまいか。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の夜の目さましに、三〇そと見せよとて、すこしも騒ぎたる三一容色いろめなし。翁いふ。かく参りたるは、三二魑魅ちみにあらず人にあらず。君が三三かしづき給ふ黄金わうごん精霊せいれいなり。
魑魅ちみを画くはやすし」などと嘯いていた支那の昔の画家は、相手が素人だと思って勝手な熱を揚げていたのかも知れない。魑魅だって内界までも入れた広い意味での自然界には実在の動物なのである。
雑魚図譜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
椿 そのほか、夥多あまた道陸神どうろくじんたち、こだますだま、魑魅ちみ魍魎もうりょう
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)