鬼神おにがみ)” の例文
「今度飛鳥あすか大臣様おおおみさまの御姫様が御二方、どうやら鬼神おにがみのたぐいにでもさらわれたと見えて、一晩の中に御行方おんゆくえが知れなくなった。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わづか三十一みそひと文字を以てすら、目に見えぬ鬼神おにがみを感ぜしむる国柄なり。いはんや識者をや。目に見えぬものに驚くが如き、野暮なる今日の御代みよにはあらず。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
鬼の亭主に鬼神おにがみで、大概たいがいの物に驚くような女ではありませんが、この時ばかりは全くギョッとしました。
かけ平日ふだん百か二百の端足はしたぜにさへ勘定かんぢやうあはざれば狂氣きやうきの如くに騷ぎ立る五兵衞なれば五十兩の事故鬼神おにがみの如くいきどほり居たる所へ番頭久八進み出て私し儀幼少えうせうの時よりの御恩澤おんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あんな優雅な殿が、馬上となれば、鬼神おにがみも恐れるようなお人になるのかと、思わず疑われました。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何を! 相手が鬼神おにがみだって、俺が必死に突っかかりゃあ、っ倒せねえことがあるものか——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……かねての風説、鬼神おにがみより、魔よりも、ここを恐しと存じておるゆえ、いささか躊躇ちゅうちょはいたしますが、既に、わたくしの、かく参ったを、認めております。こう云う中にも、たった今。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やまと歌のやうに天地あめつちを動かし鬼神おにがみを泣かすと云ふやうなはたらきはないが川柳せんりゆうのやうに寸鐵骨をさすやうな妙は、たしかにある、古い詩ではあるが人情には變異はない、其の機微を穿つたもので
婚姻の媒酌 (旧字旧仮名) / 榊亮三郎(著)
この犬を相手にしたが最後、どんな恐しい鬼神おにがみでも、きっと一噛ひとかみに噛み殺されてしまう。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たかが生ッちろせた野郎、鬼神おにがみではあるめえ。一思いにひねつぶしてくりょう。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加茂川は鬼神おにがみの心をもやわらぐるという歌人うたびとであるのみならず、その気立が優しく、その容貌も優しいので、鼻下、あぎとひげたくわえているが、それさえ人柄に依って威厳的に可恐こわらしゅうはなく
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて宗山とか云う盲人、おの不束ふつつかなを知って屈死した心、かくのごときは芸の上の鬼神おにがみなれば、自分は、葬式とむらい送迎おくりむかい、墓に謡を手向きょう、と人々と約束して、私はその場から追出された。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鬼神おにがみなりとて否むべきか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)