みかえ)” の例文
「どうも文字もじのようですな。」と、巡査がみかえると、忠一は黙って首肯うなずいたが、やが衣兜かくしから手帳を把出とりだして、一々これを写し始めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
華奢きゃしゃ洋傘こうもりをパッとひろげて、別に紅い顔をするのでもなく薄い唇の固く結ぼれた口もとに、泣くような笑うような一種冷やかな表情を浮べて階壇を登って行ってしもうた、土方はもうみかえる者もない
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
予は驚きてみかえりぬ。振返れば女居たり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というと、の老人は静かにうしろみかえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「鶏を……。誰にられたろう。又、銀山の鉱夫の悪戯いたずらかな。」と、若い主人は少しく眉をひそめて、雇人やといにんの七兵衛老爺じじいみかえった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七兵衛は憎さげにみかえった。冬子もねたげに顧った。この四つの眼に睨まれたお葉は、相変らず落葉を枕にして、死んだ者のようによこたわっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はて、不思議と見てゐるうちに、彼はすでに二けんばかりも歩き出した。私は一種の好奇心に駆られて、背後うしろから其後そのあとけやうと、跫音あしおとぬすんで一歩み出すや否や、彼はたちまみかえつた。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)