すた)” の例文
兄弟の父は今申す鎧師、その頃は鎧師などいう職業はほとんどすたっていましたし、それに世渡りの才はうとい人で、家は至って貧乏でした。
かしこきあたりの御事は申すも畏し、一般の華族と富豪とかいう者は、元来非常に見識をたっとぶものであるが、それが今ではすたれて来た。平民的になって来た。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
樺火は少しすたれた。踊がもう始まつたのであらう。太皷の音は急に高くなつて、調子に合つてゐる。唄の聲も聞える。人影は次第々々にその方へながれて行く。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
城砦型に建てられた鉄筋コンクリートの小学校は、雨の日はみごとに出水する下町の中で、いやに目立ってそびえていた。この一帯は一昔前、震災でぺろり焼けすたれた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
国々の語部の物語も、現用のうたに絡んだものばかりになり、其さへ次第にすたれて行つたらしい。
歩と驟と、おのもおのも異に、文と質と同じからずといへども、古をかむがへて風猷ふういうを既にすたれたるにただしたまひ、今を照して典教を絶えなむとするに補ひたまはずといふこと無かりき。
すたれゆく旧主家に、救いの神が現われたような気持ちがしたのであった。
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
教育が職業となってから、真の教化の精神はすたれたのであった。省みて昔日の私塾をなつかしむ所以ゆえんである。すなわち、功利主義なるが故に、いたずらに知識を重んじて、徳義を軽んじたのである。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「男女七歳にして席をおなじゅうせず」と言った旧道徳は、徳川幕府の勢威と共にすたれて仕舞しまって、今は従兄弟いとこ同志の親しさに、角目立って物を言う人も無いのを幸い、鎧蔵の前の濡れ縁に寄り添って
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ごつごつで無細工で荒れてすたれて生活のように殺風景だが
(新字新仮名) / 今村恒夫(著)
日はむか河岸がし家畜病院かちくびやうゐんすたれたる露台バルコンを染め
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私が弟子を置き初めた時分……ちょうど西町時代の初期頃は木彫りが非常にすたれ、ひとえに象牙ばかりが流行はやった時代。
樺火は少許すこしすたれた。踊がモウ始まつたのであらう、太鼓の音は急に高くなつて、調子に合つてゐる。唄の声も聞える。人影は次第々々にその方へながれて行く。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)