領伏ひれふ)” の例文
と山の襞襀ひだを霧の包むやうに枯蘆かれあしにぬつと立つ、此のだいなる魔神ましんすそに、小さくなつて、屑屋は頭から領伏ひれふして手を合せて拝んだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見る間に出行いでゆく貫一、咄嗟あなや紙門ふすまは鉄壁よりも堅くてられたり。宮はその心に張充はりつめし望を失ひてはたと領伏ひれふしぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「善良なる精霊殿よ」と、彼は精霊の前の地に領伏ひれふしながら言葉を続けた。
山の出づる月の光に、真紫に輝きまするを夢のように抱きました時、あれの父親は白砂に領伏ひれふし、波のすそを吸いました。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆるめてつち領伏ひれふし、身動きもせでしばらく横たわりたりしが、ようようまくらを返して、がっくりとかしられ、やがて草の根を力におぼつかなくも立ちがりて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浄玻璃じょうはりに映り、閻魔大王の前に領伏ひれふしたような気がして、豆府は、ふっくり、菎蒻は、せたり。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このうちとどまりて憂目うきめを見るは、三人みたり婦女おんな厄介やっかい盲人めしいとのみ。婦女等おんなたちは船の動くととも船暈せんうんおこして、かつき、かつうめき、正体無く領伏ひれふしたる髪のみだれ汚穢けがれものまみらして、半死半生の間に苦悶せり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をんなたちの、あつとつて領伏ひれふしたのもすくなくない。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)