鞍壺くらつぼ)” の例文
龍太郎は、黒鹿毛くろかげにまたがって、鞍壺くらつぼのわきへ、梅雪をひッつるし、一鞭ひとむちくれて走りだすと、山県蔦之助も、おくれじものと、つづいていく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿臂ゑんぴをのばいたと見るほどに、早くも敵の大将を鞍壺くらつぼからひきぬいて、目もはるかな大空へ、つぶての如く投げ飛ばいた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二人のやりの穂先がしわって馬と馬の鼻頭はなづらが合うとき、鞍壺くらつぼにたまらず落ちたが最後無難にこの関をゆる事は出来ぬ。よろいかぶと、馬諸共もろともに召し上げらるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
曲輪くるわに溢れ、寄手の軍勢から一際鋭角を作って、大坂城の中へくさびのごとく食い入って行くのを見ると、他愛もない児童のように鞍壺くらつぼに躍り上ってよろこんだ。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むちを振り上げて丹後守を打とうとした時に、何のはずみか真逆まっさかさまに鞍壺くらつぼからころげ落ちて、馬は棹立さおだちになった。
馬の胸から、腹、鞍壺くらつぼまで届くところもあった。もっと深いところになると馬を泳がせた。
耳が開いており、鞍壺くらつぼが深く、きれいな頭には黒い星が一つあって、首が長く、足も高く上がり、胸が張っていて、肩には丸みがあり、尻もしっかりしていた。高さは十五手幅の上もあったかな。
と、気合するどく、わずかにくらの上で身をねじりましたから切っさきは、はずれて、馬の鞍壺くらつぼをきりつけましたが、さすがは間庭無念流の達人、左近将監はたちまち馬上に刃を抜きあわせました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
秋葉の原は主人が騎兵上りで、ひととおり乗り方を教えてくれたが、誰も彼も新兵扱い、みずから馬の口を取って馬場を一周すると、この調子でと早くも突き放す。客は青くなって鞍壺くらつぼへしがみつく。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
鞍壺くらつぼに小坊主乗るや大根引だいこひき 同
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、たちまち一頭、血みどろの口をした黒犬が、すさまじくうなりながら、砂を巻いて鞍壺くらつぼへ飛びあがった。とがったきばが、危うく次郎のひざへかかる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いざという間際まぎわでずどんと落ること妙なり、自転車は逆立も何もせず至極しごく落ちつきはらったものだが乗客だけはまさに鞍壺くらつぼにたまらずずんでん堂とこける
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
途中までくると、案内役の民蔵は、梅雪入道の鞍壺くらつぼのそばへよって、ふいに小腰をかがめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞍壺くらつぼに小坊主乗るや大根引だいこひき 同
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
穴山梅雪あなやまばいせつ眉間みけん一太刀ひとたち割られているうえに、ここまでのあいだに、いくどとなく投げられたり鞍壺くらつぼにひッつるされたりしてきたので、この世の者とも見えぬ顔色になっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「帆柱に掲げた旗は赤か白か」とおくれたるウィリアムは叫ぶ。「白か赤か、赤か白か」と続け様に叫ぶ。鞍壺くらつぼに延び上ったるシーワルドはたいをおろすと等しく馬を向け直して一散に城門の方へ飛ばす。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鞍壺くらつぼに小坊主のるや大根引だいこひき
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
だのに馬上の与力は無礼とがめもせず、ヒラリと鞍壺くらつぼから飛び降りて小腰を屈め
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と玄蕃は鞍壺くらつぼを叩いて怒喝した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)