鎧武者よろいむしゃ)” の例文
後の城中では大童おおわらわ鎧武者よろいむしゃ(左団次の渥美五郎)の御注進がある。この鎧武者が敵の軍兵と闘いながら、満祐の前で御注進をする。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
制しようがなかった、手早く法衣を身に着け、数珠を手に襖を開けて納戸を出ると、ちょうど押入って来た三人の鎧武者よろいむしゃとばったり顔をつき合せた。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
絵巻にある赤鬼青鬼のような鎧武者よろいむしゃなのだ。中でも背の高い一人が女官をとらえて、「……天皇はどこに御寝ぎょしか。つつみ隠すと、そッ首をぶち落すぞ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまりはその古式を復興して、いま、馬上でせて行った鎧武者よろいむしゃが、つまり八面大王なのだ、あれが中房へ行くと、田村麿の手でつかまります——という。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
加藤清正かとうきよまさ相生町あいおいちょう二丁目の横町に住んでいた。と言ってももちろん鎧武者よろいむしゃではない。ごく小さい桶屋おけやだった。しかし主人は標札によれば、加藤清正に違いなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
抜いた刀を肩にかつぎ、ヒラリと庭へ躍り出たが、見れば庭園にわの四方八方ありの這い出る隙間もなく鎧武者よろいむしゃヒシヒシと取り囲み、高張り提灯ぢょうちん松火まつ篝火かがりび、真昼の如くえ光り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それだのに、洋画の方には鎧武者よろいむしゃや平安朝風景がない。これも不思議である。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
物音がするので出てみれば、鎧武者よろいむしゃが三百騎、余程あの御所が恐いとみえる。
多分政宗方では物柔らかに其他意無きを示して、書院で饗応きょうおうでも仕たろうが、鎧武者よろいむしゃを七人も八人も数寄屋に請ずることは出来もせぬことであり、主従の礼を無視するにも当るから、御免こうむったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
箭四郎が見てきた通り、洛中は、大路も小路こうじも、鎧武者よろいむしゃと、馬と、弓と長刀なぎなたとに、うずまっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑兵が三人ほど、ほかにひげをたてた鎧武者よろいむしゃが一人、燭台をひきよせてなにか書いていた。
伝四郎兄妹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのつづらにともえの紋がついていることで、そうして、きのうの途中、四道将軍のような鎧武者よろいむしゃがしょって、馬に乗ってまっしぐらに走らせたそれが、このつづらに似ている、いや
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時一人の鎧武者よろいむしゃが、雪を蹴立てて走って来たが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あやうく鉄杖てつじょうの二つどうにされそこなった佐分利さぶり五郎次、井戸がわから五、六尺とびのいてきッと見れば、鎧武者よろいむしゃにはあらず、黒の染衣せんえかろやかに、ねずみの手甲てっこう脚絆きゃはんをつけた骨たくましい若僧わかそう、いま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)