錠前ぢやうまへ)” の例文
ドアに飛びついて、死物狂ひになつて錠前ぢやうまへを搖すぶつた。そとの廊下に跫音あしおとが駈けて來て、鍵がはづされて、ベシーとアボットが這入つて來た
甚兵衞聞出しければ彼が留守るすへ忍び入て物せんと茲に惡心あくしんを生じ旦暮あけくれ道庵だうあんたくの樣子をうかゞ或夜あるよ戌刻頃いつゝごろきたりて見れば表は錠前ぢやうまへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さていよ/\勢揃せいぞろひをすることになつた。場所はかねて東照宮の境内けいだいを使ふことにしてある。そこへ出る時人々は始て非常口の錠前ぢやうまへいてゐたのを知つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
權次は鍵や錠前ぢやうまへの直しもやつたのですから、これも商賣道具の一つと言つてしまへばそれまでです。
その後にしつかりした錠前ぢやうまへの附いた総桐そうぎり箪笥たんすがさも物々しく置かれてある。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
つきヤレ/\有難き仰せ畏まり奉つると蘇生よみがへりたる心地こゝちにて直樣すぐさま馳歸はせかへり多くのかぎを持參なし種々いろ/\あはせ見て具足櫃ぐそくびつ錠前ぢやうまへあけけるとなり此事錠前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このことも私は考へたのだつた。私の手は錠前ぢやうまへの方に動いた。だがそれを引込めて、私は跫音を忍ばせて過ぎた。
塀際へいぎはにゐた岡田は、宇津木の最期さいごを見届けるやいなや、塀に沿うて東照宮とうせうぐう境内けいだいへ抜ける非常口に駆け附けた。そして錠前ぢやうまへ文鎮ぶんちんけて、こつそり大塩の屋敷を出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
諸大名から預つた反物などをこと/″\く詰めこみ、翌る二十六日の夕刻には、嚴重に錠前ぢやうまへをおろして、番頭と手代と出入りのとびの者職人衆などが、交代で張り番をすることになりました。
しかし何の物音も聽えず、すゝなきの聲もしなかつた。この上五分間も、あの死のやうな沈默が續いたなら、私は盜人のやうに錠前ぢやうまへをこぢ開けたに違ひない。
つとむる者の心得は萬事かくの如し此事我々のうへにある時は自然しぜん面倒めんだうなりとて他人ひとの物にても錠前ぢやうまへたゝあけよなど云事なしとも云難いひがたかりにも錠前ぢやうまへを破るは關所せきしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「こんな事は無い筈ですが、よく調べて見ると、旦那のお手許に差上げた金のうちから、二三百兩不足して居ります。金箱も用箪笥ようだんす錠前ぢやうまへしつかりして居りましたから、泥棒が入つた筈もありません」