過世すぐせ)” の例文
事のおきてにたがふとて、せめらるゝ事の苦しきも、過世すぐせのつみの滅びんと、思ふ心に忍べりと、聞ける吾身わがみのいかにして、忍ばるべしや忍ばれん
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
過世すぐせの深い縁であろう、浅緑の薫のなおせやらぬ橘之助の浴衣を身につけて、跣足はだしで、亡き人のあとを追った。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰れあらん小松殿の嫡男として、名門の跡を繼ぐべき御身なるに、天が下に此山ならで身を寄せ給ふ處なきまでに零落おちぶれさせ給ひしは、過世すぐせ如何なる因縁あればにや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
見するも過世すぐせ因縁いんえんなるか不便の者をとかこちしが我から心を鬼になし道途だうとに迷ふ親の身をたすかる手便てだては此乳子ちごを捨るより外に思案なしと我が子の寢顏ねがほを打ながめ涙ながらに心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なつかしい。わたし貴下あなた七歳なゝつ年紀とし、おそばたお友達ともだち……過世すぐせえんで、こひしうり、いつまでも/\、御一所ごいつしよにとおもこゝろが、我知われしらずかたちて、みやこ如月きさらぎゆきばん
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そもや御身と我れ、時を同うして此世に生れしは過世すぐせ何のいん、何のくわありてぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
可懐しさもまるで過世すぐせの夢をここに繰返すようなもので、あえて、ここで何等のことを仕出しいだしたことはないが、天神下はその母親の生れた処だということについてである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)