追捕ついぶ)” の例文
「今朝はやく、倉敷代官さし添いにて、木阪町奉行よりの使者がまいり、高松郷士早水秀之進に対する追捕ついぶの旨を申し達しました」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
追捕ついぶの舟軍は、一とき、夜の海を不知火しらぬいにして迫っていた。そのうちの二、三ぞうは、つい矢ごろの距離にまで追ッついて来たほどである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
退路を断たれ、追捕ついぶの軍は迫つてきた。押勝はやむなく我が子、辛加知カラカチの任地越前に逃げ、塩焼王をたてゝ天皇と称し、党類に叙位して士気を煽り、その儚なさに哀れを覚えるいとまもなかつた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
追捕ついぶ検非違使けびいしは、宗府生久経、領送使は左衛門の府生武次であった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
でも追捕ついぶの急はゆるめもならず、捜査の手を海陸にわけて、やっと夜見ヶ浜へ上陸とまでの、目ぼしをつけて来たものだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらく隠岐ノ判官清高は、やっと今頃、島前どうぜんからの急使に仰天して、追捕ついぶの船手の編成に狂奔していたのではあるまいか。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もはや開封かいほうの都では、あなたを班の脱走者とみなし、徐寧じょねい追捕ついぶの令が出ている。否といっても、あなたの帰る所はない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただここに最も世人を歯ぎしりさせた一事は、この酸鼻さんびを起した当の張本人荒木村重が、ついに追捕ついぶの網にもれて逸早く逃げてしまったことである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われに返ると、公宗の背後と両わきには、三名の将がつッ立っていた。そのうしろにも追捕ついぶの兵がひしひしと見えた。
やはり河内から大和へ潜幸せんこうされていたものらしい。しかし、この方面は、相当、往来が多く、また追捕ついぶの兵も、第一に手を廻したはずのところである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あげくに、きのうの部下だった木っ葉武者に、追捕ついぶを懸けられ、なんで山野を逃げ隠れしてばかり歩いているのか。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「尊氏追捕ついぶのために再度の御発向もおひかえあること。お忙しさは察しるが、貴邸へ伺うてはいかがであろうか」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふふむ、そうか。左様な証拠があるとあっては、無礙むげに老父や弟を拘引こういんもなるまい。宋江の追捕ついぶは、懸賞金をかけて、ひろく他をさがさせることにしよう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花栄、秦明、黄信の名は、むほん人として官簿かんぼから抹殺まっさつされ、代るに、青州奉行や中書省の発令で近く追捕ついぶの大軍団がこれへ急派されるという取り沙汰だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文字どおり骨肉相食あいはむの惨をえんじた悪夢の一戦も、新院方(崇徳上皇)の敗北に帰して、内裏方だいりがた(御白河天皇)では乱後、戦犯の元凶を、追捕ついぶするのに急でした。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大物だいもつうらの遭難後、追捕ついぶの兵に追われて、吉野の奥にかくれ、そしてまた、別れるまでの約七日間、二人は完全に二人だけで、世外の山院へ身を潜めていたのである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「のみならず、ご息女の花世どのも、今では、きびしい追捕ついぶに追われて、お屋敷にもおりませぬ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「惜しむらく、一つ残念なことをしたな。吉野の奥はまだ雪とやら、ぜひもないが、追捕ついぶのもう一歩では、南朝がたの君臣を、このさい一挙に捕えることもできたろうに」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
革胴服かわどうふくにもんぺを穿き、脇差わきざしをさした工匠風こうしょうふう、だれかと思うと、秀吉ひでよし追捕ついぶをのがれて、竹生島ちくぶしまから落ちてきた上部八風斎かんべはっぷうさい、いまではもとにかえって鏃鍛冶やじりかじはなかけ卜斎ぼくさい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さだめしこの者たちは、後で代官所の追捕ついぶい廻されなければなるまい——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを諸書には、下野しもつけに隠れたとあるが、足利の国元へはすぐ追捕ついぶが廻っていたろうことはいうまでもない。またすでに高氏はむほんしたのだ。千寿王がわざわざ危地へ行くはずはない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、あらゆる機関をして、八方へ追捕ついぶを派し、その情報を待つしかなかった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新免無二斎しんめんむにさいの遺子武蔵たけぞうこと予而かねて追捕ついぶお沙汰中の所、在所の山道に出没し、殺戮さつりく悪業いたらざるなきを以て、見当り次第成敗仕る可者也べきものなり依而よって、武蔵調伏に功ある者には、左之通り、御賞おんしょう下被くださる
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、甲府こうふへはいるにさきだって、民部みんぶ献策けんさくによって六人は三くみに分れることにした。なぜかといえば、小太郎山奪取こたろうざんだっしゅののち、徳川家とくがわけ大久保石見おおくぼいわみめいじて、いっそう伊那丸の追捕ついぶ厳命げんめいした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)