身丈みたけ)” の例文
「ここいらはこの辺までしか水が来なかったのだよ。前の家の方はお父さんの身丈みたけも立たない位だったからね。……」
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
と、袂で交互にそこらを打ち払い、また、やにわに、そこの身丈みたけよりは低い竹矢来を破ッて、さらし首のけならべてある台へむかって突進しかけた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欧洲にては背広の代りにモオニングをきてゐる人多し。背広にては商店の手代てだいに見まがふ故なるべし。日本人は身丈みたけ高からざる故モオニングは似合はず。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
石田氏は五尺六寸という身丈みたけで、日本人にしては胴の長いほうだが、ソファの谷にいると、鰯に箸が届かない。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
身丈みたけの長い羽織なので、田舎風に見える。暗い冬の荒れ模様の空の下を奇妙な列が行く。誰も何とも思わない。こうした行列を怪しむものは一人もないのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
思ひなしか少しばかり猫背におなりのやうですが、それでゐて身丈みたけは昔より一層すらりと高く見受けられるのは、やはり幾ぶんおせになつたせゐかも知れません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
身丈みたけに合つた灰色無地の三つ揃いと、すこし旧式すぎたが、暖たかそうなダブルの黒外套とを、これときめて値をきくと、当節、どんなに勉強しても両方で二万五千だと、主人は
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
ずいぶんせ細っているようであったけれども身丈みたけは尋常であったし、着ている背広服も黒サアジのふつうのものであったが、そのうえに羽織っている外套がいとうがだいいち怪しかった。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
どうにか自分じぶん仕上しあげた身丈みたけりる衣物きものておつぎはにはか大人おとなびたやうにつた。はたけときにはまだのりのぬけない半纏はんてんあかたすきかたからけて勘次かんじうしろいてく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
チビ公は身丈みたけが低いが非常に敏捷びんしょうであった、かれは球を捕るには一種の天才であった、かれはわずかばかりの練習でゴロにいろいろなものがあることを感じた、大きく波を打ってくるもの
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
身丈みたけがすんなりとして柳の木を削って作ったような若君である。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「大作は、もっと、痩せて、身丈みたけが高いと聞いておったが——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
わが世さびし身丈みたけおなじき茴香うゐきやうも薄黄に花の咲きそめにけり
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこへ、化粧道具を手拭てぬぐいにくるみ、少し身丈みたけにあまる丹前は伊達巻だてまきのあだッぽい姿を見せたのは丹頂のおくめ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の卅二番という既製洋服レディー・メードが縫直しもせずにキッチリと当嵌るという当世風な身丈みたけ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)