蹄鉄ていてつ)” の例文
ごくとしよりの馬などは、わざわざ蹄鉄ていてつをはずされて、ぼろぼろなみだをこぼしながら、その大きな判をぱたっと証書に押したのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
肥汲こえくみ馬車と、在から出てくる百姓相手の飲食店、蹄鉄ていてつ屋、自転車屋、それから製材所などが、マバラにつながっている位で
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
しずかなること一しゅん、たちまち、パパパパパパパッ! と地を打ってきた蹄鉄ていてつのひびき、天馬飛空てんばひくうのような勢いをもって乗りつけてきたのは木隠龍太郎こがくれりゅうたろうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはある男が、馬の蹄鉄ていてつを足につけて犯罪の場所へ往復した為に、うまく嫌疑を免れたという話でした。明智もきっとそんな事を考えていたのに相違ありません。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
正勝は鞭を振り振り、蹄鉄ていてつの跡のその硬い凸凹を蹴崩けくずした。その動作につれ、森谷牧場主森谷喜平の遺品の高価な鞭はにきらめきながら、ぴゅうぴゅうと鳴った。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
真向まむかいの鍛冶かじ場で蹄鉄ていてつを鍛える音、鉄砧かなしきの上に落ちる金槌かなづちのとんちんかんな踊り、ふいごのふうふういう息使い、ひづめの焼かれるにおい、水辺にうずくまってる洗濯せんたく女のきね
明治天皇の乗馬の蹄鉄ていてつやら、ビルマで発掘した千年前の馬上の仏像やら、一つ一つに能書がつくのだが、名題の話術の名人だから、新講談をきくくらいには退屈しない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
へとへとになった馬のからだからも、あついきをはく馬のはなからも、こおった湯気ゆげがふうふうたっている。かさかさした雪をふみしだく蹄鉄ていてつが、敷石しきいしにあたってりわたる。
前の方で大きな声をする人があるので、わたしも気がついて見あげると、名に負う第一の石門せきもん蹄鉄ていてつのような形をして、霧の間からきっそびえていました。高さ十じょうに近いとか云います。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう役所は午引ひるびけになっている。石田は馬に蹄鉄ていてつを打たせに遣ったので、司令部から引掛ひきがけに、紫川むらさきがわ左岸さがんの狭い道を常磐橋ときわばしの方へ歩いていると、戦役せんえき以来心安くしていた中野という男に逢った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
例えば、路上にて落ちたる蹄鉄ていてつを拾うのを吉事とし、これを持ち帰って大切に保存しておく。それゆえに西洋人の居宅には、ときどき室の入口やストーブの上などに、蹄鉄を掲げて置くのを見る。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「それはあるならばつけて上げます。しかし人間の脚はないのですから。——まあ、災難さいなんとおあきらめなさい。しかし馬の脚は丈夫ですよ。時々蹄鉄ていてつを打ちかえれば、どんな山道でも平気ですよ。……」
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ワーニャ 蹄鉄ていてつを打ち直すんだね。
どうしてその人が競馬の何かだといふことがわかったかと云ひますと、実はその人の胸に蹄鉄ていてつの形の徽章きしゃうのついてゐたのを、さっき私は椅子にかける前ちゃんと見たのです。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その蹄鉄ていてつが浪岡の膝に入った。浪岡は驚いて花房の周囲をぐるぐると駆け回った。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
折々馬が足を踏み更えるので、蹄鉄ていてつが厩の敷板に触れてことことという。そうすると別当が「こら」と云って馬を叱っている。石田は気がのんびりするような心持で、朝の空気を深く呼吸した。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一匹の馬がその家まで来て、又帰って行った蹄鉄ていてつの跡であった。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこへぽかぽかと蹄鉄ていてつを鳴らして、三頭の馬が殺到してきた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)