跛行びっこ)” の例文
「ところが、人違いさ、——並木まで出て、後ろ姿を見ると、遠方からでも分るほどな跛行びっこと来ていやがる。……がっかりしちまッた」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして跛行びっこを引きつつ発射管室の方に歩んで行ったのを、僕らは、跛行者びっこのシュテッヘと早合点してしまったのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その斎藤下野とは、一口にいえば、見ッともない小男というしかないが、その上に、左の一眼はつぶれているし、足は跛行びっこをひいている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手を振りながら——跛行びっこではあるが——上手じょうずに杖にすがりながら、ぴょんぴょんと、軽くぶように山道を降り始めていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それとすりゃあ、しめたもンだ。今からでも追ッつける。野郎、足でも怪我けがをしたことか、後ろ姿を見たところ、跛行びっこをひいていましたぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりはただの旅すがた、ひとりはひどい跛行びっこである。衣服も粗末、あかじみているどころか、側に寄るとくさいほどだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いい捨てると、婆は、怪訝けげんな顔しているその女の歩みを追い越して、跛行びっこ蟷螂かまきりが急ぐように、先へ駈け去ってしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうかい。そいつアちょうどいい。——こう、連れの一人が、跛行びっこを曳いて、弱ってるんだ。乗せてッてくんねえか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言っても、重蔵は例の跛行びっこなので、ややもするとよろめくようになる。それを心なき往来の者は指差して笑っていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははは。跛行びっこもだいぶ引き馴れて参った。気をつこうて歩くと却って転ぶ。ちか頃は、勘で跳ぶのじゃ、こつで歩くのじゃよ。見栄みえはいらんからのう」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通は、跛行びっこをひきながら歩き出した。武蔵も歩いた。——黙々と、遅々と、秋の霜を、片輪の虫が歩むように。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておいの狐は、すこし跛行びっこをひく気味で、時々、前へのめる様子なので、しめたと思って、近づくと、やにわに神通力を出して、何間なんげんも先へ跳んでしまう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五郎次は、後で蘇生したというが、おそらく跛行びっこになってしまったろう。左の太股ふとももか腰部の骨は砕けた筈である。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山田を出た武蔵もまたこわい眉と唇を持って、痛む足をひきずりながら、鈍々どんどんと、跛行びっこをひいてここを通った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成自身もすこし跛行びっこをひき、その頬肉のソゲも、他の諸大将の比でないやつれ方と思われたにちがいない。
ふとその時、彼の片方の足を見ると、足の甲をぬので縛っていた。歩むには少し跛行びっこをひいている形である。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つぶやきながら、そこらにいる小姓組の若者たちの中を、跛行びっこの人が、案内もなく秀吉の室へ通って行った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
列のうしろで、吉田忠左衛門と、跛行びっこをひいて歩いている原惣右衛門が、先頭の若い者へ云った。その列の先から、一人、神崎与五郎が、先へ駈け出して行った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひときわ背も低く、足も跛行びっこの小男が、人からうけた大盃を乾してそれを返しに立ってゆくのを見て
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歩行に甚だしい跛行びっこをひくが、馬に乗るにはさして不自由を覚えないらしい。彼は駒をひとの手にあずけて秀吉の前にひざまずき、あたりの騒音を幸いにそっとささやいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
負傷した片脚は、傷口の肉こそついたが、ひどい跛行びっこをひかなければ歩けないものとなっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官兵衛は例のごとく片脚不自由な身なので、杖を持たぬ室内では殊にひどく跛行びっこをひく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何とその侍は、跛行びっこをひいているではないか。さっき、自分が斬りつけて逃がした狐も跛行だった。察するところ、この狐めは、自分に脚を斬られて逃げた狐のほうに違いない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの、お互いです」跛行びっこをひいて歩く鈴虫のかいなを抱えて、二人はただすもりをいそいだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「? ……。そういえば、さっきからすこし跛行びっこをひいていなさるようで」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今なお足の傷手いたでえないので、歩行のときは甚だしい跛行びっこをひく。(これは痼疾こしつとなって生涯の不具となった)——で、彼は、栗山善助に命じて、軽敏に乗用できる陣輿をつくらせておいた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな中であったが冗談に「達者で暮らせよ」と、尻を打ッてやった者もある。だが馬も跛行びっこをひいて駈け下りて行ったとおもうと、すぐ草むらに仆れ、そのまま起ち上がらないものもあった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郎従たちは自分の疲労や深傷ふかでは忘れて、跛行びっこをひいて歩く正成の一歩一歩をいたわりつつんだ。それは神に従ってゆく使徒のような信念と静かな眸とにかがやいている一ト群れの血泥に見えた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這って来る者、跛行びっこをひいて来る者、負われて来る者、抱かれて来る者——馬頭観音の堂をめぐって充満みちみちている上洛の美々しい行装の将士とくらべて——これは、おかしいような奇観であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、片目はどうしてつぶれたかとか、足はどこで跛行びっこになったかなどと、露骨にたずねたが、下野の答えは、機智縦横でしかも相手を不快にさせない程度に自己の見識と鋭さを持っていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここへ来ては金剛千早の日の古傷ふるきずもあわせて痛んでいたかもしれない。正成はさっきからすでに跛行びっこを曳いていたのである。で、弓杖を持つといくぶん姿勢を直してほっと先頭で一ト息していた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて還って来るものは、遺髪いはつと爪だけかとまで、一ころは深く思いあきらめていた彼の妻には、大きく左の肩を落して、跛行びっこをひきひき歩く良人の姿も、よくぞご無事で——としか見えなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いけませんよ。跛行びっこをひいていれば、すぐ知れてしまうことを」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、跛行びっこをひきひき、とうげを越え、又、峠を越えて、東へ行った。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
跛行びっこと鉄車
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)