さかし)” の例文
さかしげな百説、どれもこれも採るに足らぬ。吉良は無事に生きているのだ。ただ、亡君の怨敵おんてきたる彼のしるしを申しうければそれで足る)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、さかしがって言うのを尼夫人などは片腹痛く思った。大老人のあずま琴で興味のしらけてしまった席から中将の帰って行く時も山おろしが吹いていた。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
少年はさかしげな眼でこちらを見た、お高は頬笑みながら、それには及ばない、と云ってあるきだした。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さと言葉ことばらぬも、こひにはをんなさかしうして、そでたもとおほひしが、月日つきひつまゝ、つるはさすがにとしこうおのかしらいろふ、むすめちゝいろづきけるに、總毛そうげふるつて仰天ぎやうてんし、あまね掻搜かきさがして
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
万葉の一詩人はさかしら人を猿となし、酔ひ泣きするになほ如かずなりと唄つてゐる。花となつてみめよき乙女の髪を飾り、靴となつてあのの足に踏まれたいとアナクレオンのともがらも唄ふのである。
さかしい少女の黒髪と
「茶に知るの、知らぬのという、智恵がましいさかしらごとはないものぞよ。武骨者なら武骨者らしゅう飲んだがよいに」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、彼のような実践第一とする志士的な眸には、口のみさかしげに容態ぶって、時乱の外にだけいる隠遁者などは、およそ虫の好かぬ卑怯者ときめていたことでもあろう。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こやつ、なにをさかしげに、訴えるかと思えば、夢でも見てきたような囈言たわごと。この清盛に弓をひく者はおろか、西八条の邸に小石一つ投げつけ得るほどの者が、天下にあろうか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
末法の世といわれるのも、ああいう位階のたかい僧正の行状ですらそうなのだから、まことにやむを得ないことだ、嘆かわしいことだなどと、讒訴ざんその舌をさかしげに、寄るとさわると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)