うたひ)” の例文
新字:
言つて板屋家に乘込み、うたひの師匠だか、用人だか、居候だかわからないやうに暮して居るが、——殿樣を絞め殺した後は——
幼君えうくん「さてなんにてもしよくこのむべし、いふがまゝにあたふべきぞ、退屈たいくつならば其中そのなかにてうたひまひ勝手かつてたるべし。たゞ兩便りやうべんようほかそとづることをゆるさず」と言棄いひすててたまひぬ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すゝむるにやゝ三四升ほども飮しかば半四郎は機嫌なゝめならずうたひを謠ひ手拍子てびやうしうつて騷ぎ立るにとなり座敷のとまり客は兎角に騷がしくしてねむる事もならず甚だ迷惑めいわくなし能加減いゝかげんしづまれよとふすま一重ひとへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うたひの御稽古ださうだす。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
顏立ちが立派で、態度が莊重で、うたひきたへた聲が堂々としてゐるだけに、この男の調子は、いかにも暴慢で尊大で、冷酷無殘にさへ響くのです。
デツプリ肥つた、長身の中年者で、見てくれも立派ですが、多年うたひきたへたせゐか、凛として、素晴らしい次低音バリトーンです。
ひいでた眉、高い鼻、少し大きいが紅い唇、うたひの地があるらしいさびを含んだ聲、口上も江戸前でハキハキして居ります。
うたひを歌つてゐた浪人者も、齒磨を賣つて居た居合拔きも、法螺ほらの貝を吹き立てゝゐた修驗者しゆげんじやも姿を隱して、橋は暮色のうちに、靜かに暮れて行きます。
心なしか、その端正な顏が蒼くなつて、心持ち、うたひきたへた、素晴らしい次低音バリトーンも顫へてゐるやうです。
五郎次郎の爲に、身分も家も許婚までうしなつた拙者が、橋の袂でうたひを歌つて居るのを、五郎次郎は見付けてなさけらしく拾ひ上げた。その五郎次郎に怨みはあつても恩がある筈はない。
私の祖父樣——つまり板屋家の先代順三郎樣のうたひの師匠で、もとは能役者のうやくしやだとか申しますが、四年前から板屋家に入つて、祖父樣が亡くなつた後は、親類のやうな、用人のやうな
手なづけて困る、——と店中の者が言つてゐたぜ。劍術ごつこや喧嘩や勝負事は、子供には仕舞しまひうたひより面白いだらう。大急ぎで六郎の行方を搜して見るがいゝ、俺の方でも手配してみる
下手なうたひうたふよりはと思つて、二年越し世話になつてゐるんだが——
「誰も居なかつたやうだ。父は二階でうたひか何んかやつて居られたし」
浪人者出石いづし五郎左衞門は、下手なうたひを始めました。