行止ゆきどま)” の例文
ここがおそら行止ゆきどまりで、彼等は今や袋の鼠になったろうと思いのほか何処どこくぐったか知らず、漸次しだい跫音あしおとも消えてしまって、後は寂寞せきばくたる闇となった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どこから這入はいって何処へ抜けられるか、あるいは何処へも抜けられず行止ゆきどまりになっているものか否か、それはけだしその路地に住んで始めて判然するので
いれものが小さき故に、それが希望のぞみを満しますに、手間のること、何ともまだるい。いわしを育てて鯨にするより歯痒はがゆい段の行止ゆきどまり。(公子に向う)若様は御性急じゃ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中央まんなかに庭を囲んで、そのまわりに、桝型ますがたに、部屋が並んでいる様な作り方でしたから、随って屋根裏も、ずっとその形に続いていて、行止ゆきどまりというものがありません。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私達はゆるい傾斜地をのぼり、ようやく熔岩流に近づくことが出来た。熔岩流の幅はそこでは六、七十けんにひろがり四百尺ほどの高さで、四、五十度の角度をなして行止ゆきどまっている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
長い田舎町をぬけて、田圃たんぼ沿いの街道を小一里も行って、田中路を小山の中に入って、其山ふところの行止ゆきどまりが其家であった。大きな長屋門の傍のくぐりを入って、勝手口から名刺を出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あるひは何処へも抜けられず行止ゆきどまりになつてゐるものか否か、それは蓋し其の路地に住んで始めて判然するので、一度や二度通り抜けたくらゐでは容易に判明すべきものではない。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
第一の穴は行止ゆきどまりになっていて、別に何者をも発見しなかった。第二の穴も空虚からであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第一、野良声のらごえの調子ッぱずれの可笑おかしところへ、自分主人でもない余所よそ小児こどもを、坊やとも、あのとも言うにこそ、へつらいがましい、お坊ちゃまは不見識の行止ゆきどまり、申さば器量きりょうを下げた話。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あてもなく彷徨さまよう人にとって、東京市は永久に行止ゆきどまりのない迷路であった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
行止ゆきどまりのように見えて、実は狭い間道ぬけみちのある所であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)