蠣殻かきがら)” の例文
侍女こしもとに日傘をささせ、女坂の中段から右の平地をはすに切って、そこに一軒ある古風な生垣に蠣殻かきがらかぶせの屋根門をスウとくぐった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蠣殻かきがら町辺に事務員を求めるといふ広告があつたので、出掛けて往つて見ると、九尺二間位な小さき家に怪しい者が住んで居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蠣殻かきがら町二丁目の家から水天宮裏の有馬学校へ通って居た時分———人形町通りの空が霞んで、軒並の商家あきうどや紺暖簾こんのれんにぽか/\と日があたって
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歌舞伎座が廿二年に出来るまでは、そのほかにちゅう芝居に、本所の寿ことぶき座と本郷の春木座、日本橋蠣殻かきがら町の中島なかじま座と、後に明治座になった喜昇きしょう座だけだった。
出額おでこをがッくり、爪尖つまさき蠣殻かきがらを突ッかけて、赤蜻蛉あかとんぼの散ったあとへ、ぼたぼたとこぼれて映る、烏の影へ足礫あしつぶて
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蠣殻かきがらはこの海岸の一帯に多く産し、かわらはまだふつうの人が利用するまでに、普及していなかったからである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今一つこれも知ったか振りであるが、約二十年近く前から東京に蠣殻かきがら町式という言葉が出来た。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
按摩は蠣殻かきがらのような白い眼をぱちぱちやりながら考えていたが、やっと何か思いだした。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
浅草鳥越とりこえの中村座、浅草猿若町さるわかまちの市村座、本郷春木町の春木座、少しく下がって中芝居と認められたのは、本所相生町の寿座ことぶきざ、四谷荒木町の桐座、日本橋蠣殻かきがら町の中島座の三座で
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蠣殻かきがらのついた粗朶垣そだがきの中には石塔が幾つもくろずんでゐた。彼はそれ等の石塔の向うにかすかにかがやいた海を眺め、何か急に彼女の夫を——彼女の心を捉へてゐない彼女の夫を軽蔑し出した。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「私立探偵安藤一郎 事務所 日本橋区蠣殻かきがら町三丁目四番地 電話浪花なにわ五〇一〇番」と記してある。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
熱海の街を突切つっきって、かわらのような石原から浪打際へ出ようとする、かたわら蠣殻かきがら屋根、崖の上の一軒家の、年老いた漁師であるが、真鶴崎まなづるがさきかつおの寄るのも、老眼で見えなくなったと
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、その万兵衛が、蠣殻かきがらの白くついている柴垣越しに、顔を伸びあげた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにつけくわえて、「ただ土留つちどまで蠣殻かきがらさし候分そうろうぶん勝手次第かってしだい
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
正面の上のかたは板羽目にて、上に祭壇を設け、注連しめを張れり。中央の出入り口にはやぶれたるすだれを垂れたり。下の方もおなじく板羽目。庭前の下のかたに丸太の門口、蠣殻かきがらの附きたる垣を結えり。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千束町式、蠣殻かきがら町式
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)