蚤取眼のみとりまなこ)” の例文
みんな慾の深そうな顔をした婆さんや爺さんが血眼ちまなこになって古着の山から目ぼしいのをつかみ出しては蚤取眼のみとりまなこで検査している。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一行は手分けをして、雨にうるお身長みのたけより高い草を押分け押分け、蚤取眼のみとりまなこで四方八方捜索したが、いかにしても見出す事が出来ない。咽はいよいよ渇いて来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
さて落着て居廻りを視回みまわすと、仔細しさいらしくくびかたぶけて書物かきものをするもの、蚤取眼のみとりまなこになって校合きょうごうをするもの、筆をくわえていそがわし気に帳簿を繰るものと種々さまざま有る中に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おのれが乗物の顔して急ぐ気色けしきも無くすぐる後より、蚤取眼のみとりまなこになりて遅れじと所体頽しよたいくづして駈来かけくる女房の、嵩高かさだかなる風呂敷包をいだくが上に、四歳よつほどの子を背負ひたるが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼が先刻から蚤取眼のみとりまなこで、黒の中折帽をかぶった紳士を探している間、この女は彼と同じ鋭どい注意を集めて、観察の矢を絶えずこっちにがけていたのではなかろうか。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蚤取眼のみとりまなこでたずねていても、なお、その生死すら判定しない法月弦之丞という江戸方の隠密と、お綱という女を、ひとつ、この眼八の手で、アッサリ引っくくってみたら
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにか手がかりになるものはねえかと、わっしも蚤取眼のみとりまなこでそこらを詮議すると、土間の隅にこんなものが一本落ちていたんです。店の掃除をするとき掃き落したんでしょう」
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何と仰天だろうとあるを読んで、そんな事をもしや邦書に載せあるかと蚤取眼のみとりまなこで数年捜すと、近頃やっと『古今要覧稿』五〇九に、『本朝食鑑』を引いて、この事を記しあるを発見した。
吾が畏敬すべき法医学者、若林鏡太郎君は、遠からず全世界に大流行をきたすべき「精神科学応用の犯罪」を研究して、その流行を未然に喰い止めるべく、その実例を蚤取眼のみとりまなこで探している。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其処迄そこまでは聞もらしたが兎に角、五年に一度でも、十年に一度でも、斯んな掘出物があるから、愛書家が血眼になったり、蚤取眼のみとりまなこになったり、の目鷹の目になったりするのも無理ではない。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
八五郎はさう言ひ乍ら、もう一度蚤取眼のみとりまなこでその邊をウロウロして居ります。
面白え、となった処へ、近所の挨拶をすまして、けえって来た、お源坊がお前さん、一枚いちめえ着換えて、お化粧つくりをしていたろうじゃありませんか。蚤取眼のみとりまなこ小切こぎれを探して、さっさと出てでも行く事か。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この山などは今更日本アルプスでもあるまいという旋毛つむじまがりの連中が、二千米を超えた面白そうな山はないかと、蚤取眼のみとりまなこで地図の上を物色して、此処ここにも一つあったと漸く探し出されるほど
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
非常に精細な見方をしているようで、実はある固定したわく内で蚤取眼のみとりまなこを見張っていたと云える。勿論それは私がヨリ展望のきく「地方委員会」などの仕事をしているというところからも来ているが。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
断水坊は御苦労にも卓子テーブルを担ぎ出してその上へ登り、吾輩は、懐中電灯を輝かして、蚤取眼のみとりまなこで天井をくまなく詮索したが、血汐は愚か、水の滴り落ちた形跡すらどこにもない。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)