なずな)” の例文
何です、これは、と変な顔をして自分が問うと、鼠股引氏が、なずなさ、ペンペン草も君はご存知ないのかエ、と意地の悪い云い方をした。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
真後まうしろせりなずなとあり。薺は二寸ばかりも伸びてはやつぼみのふふみたるもゆかし。右側に植ゑて鈴菜すずなとあるはたけ三寸ばかり小松菜のたぐひならん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そっとその女の傍へ寄ってせりなずなを懐へ押し入れさせ、此の者は懐姙ではござりませぬ、腹がふくれておりますのは、これ、御覧なさりませ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この母と妻の母と、もう五十に手のとゞきさうな妻と、三人の老婆が、老鶏ろうけいのやうに無意識に連れ立つて、長柄の川べりへなずななど摘みに行つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
なずなのたけたのをペンペン草ということは、東京の人たちもよく知っているが、何故なにゆえにそういったのかは、もうそろそろと忘れかかっているらしい。
まだ北風の寒い頃、子を負った跣足はだしの女の子が、小目籠めかいと庖刀を持って、せり嫁菜よめななずな野蒜のびるよもぎ蒲公英たんぽぽなぞ摘みに来る。紫雲英れんげそうが咲く。蛙が鳴く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ああわかった、それはきっと春の七草のどれかですね、なずなとかはこべらとか、きっと薺ですよそれは」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いろ/\の」の句は、春になっていろいろの草がえ出る、嫁菜とかなずなとかよもぎとか芹とかそれぞれ名があるが、それを一々覚えるのは難しいことだというのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
桃、栗、柿、大得意で、烏やとびは、むしゃむしゃと裂いてなますだし、蝸牛虫まいまいつぶろやなめくじは刺身に扱う。春は若草、なずな茅花つばな、つくつくしのお精進……かぶかじる。牛蒡ごぼう、人参は縦にくわえる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七種ななくさなずなをたたく行事は、今でもところによっては行われているのであろうか。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
射し込んでいる陽光ひかりは、地上へ、大小の、円や方形の、黄金色こがねいろの光の斑を付け、そこへ萠え出ている、すみれ土筆つくしなずなの花を、細かい宝石のように輝かせ、その木洩こもかよの空間に
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奈良へいたすぐそのあくる朝、途中の山道に咲いていた蒲公英たんぽぽなずなのような花にもひとりでに目がとまって、なんとなく懐かしいような旅びとらしい気分で、二時間あまりも歩きつづけたのち
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二階の屋根に一面になずなの生えて居る家がある。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
昭和七年二月二十二日 なずな会句会。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
母親やなずな売子に見えがくれ 鼠弾
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
それはなずなでしょう。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)