落伍者らくごしゃ)” の例文
七十名に余る落伍者らくごしゃの中には、俺と同じように苦しんだものもあったに相違ない。それをいちがいに不忠喚ふちゅうよばわりするのは当を得ない
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
仲間の中でも彼がひとり落伍者らくごしゃでついに一度も文展に入選しなかったが、お園は昼間体のあいている時間を都合し始終そこへ遊びに行っていた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
……わたしはあれから落伍者らくごしゃです。何をしてみても成り立った事はありません。妻も子供もさとに返してしまって今は一人ひとりでここに放浪しています。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし、この矛盾にえぬものは現代の落伍者らくごしゃである。たくましい忍耐をもって、このゆがんだポーズに堪え、根気よく真に魅力ある理想を探って行きい。
それが着かざった女なんかだと、それでも、ベンチの落伍者らくごしゃ共の顔が、一斉いっせいにその方を見たりなんかするのですね。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とりわけ私のようにぐうたらな落伍者らくごしゃの悲しさが影身にまでみつくようになってしまうと、何か一つの純潔とその貞節を守らずには生きていられなくなるものだ。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一つの混乱のもとは落伍者らくごしゃの多いことで、相手を失った独身の雀が、何とか身の振り方をつけようとしてうろうろとするのが、少なからず我々の観察を誤らしめるが
国民学校の先生になるという事はもう、世の中の廃残者、失敗者、落伍者らくごしゃ変人へんじん、無能力者、そんなものでしか無い証拠だという事になっているんだ。僕たちは、乞食だ。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
草木くさきのそよぎにも、恟々きょうきょうと、心をおどろかす敗軍の落伍者らくごしゃが、身をかくまってもらおうと、弁天堂べんてんどう神主かんぬし、宮内の社家しゃけにヒソヒソと密話みつわをかわしていると、せばよいのに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雌雄の数が同一でない場合に配偶者をもとめそこねた落伍者らくごしゃの運命はどうなるか。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そちたち今正いままさにその修行しゅぎょう真最中まっさいちゅうすこくらいのことは大目おおめ見逃みのがしてもやるが、あまりにそれにはしったが最後さいご結局けっきょく幽界ゆうかい落伍者らくごしゃとして、亡者扱もうじゃあつかいをけ、いくねんいくねん逆戻ぎゃくもどりをせねばならぬ。
けれども落伍者らくごしゃを収容するための休憩所を持っている。
どうせ生涯落伍者らくごしゃだと思っており、モリエールだのボルテールだの、そんなものばかり読んでおり、自分で何を書かねばならぬか、文学者たる根柢的こんていてきな意欲すらなかった。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一人の落伍者らくごしゃ逃竄者とうざんしゃをも許さなかったことは、今さら改めてこれを体験してみるにも及ばなかったのであるが、そういう中にすらもなおこの日本の島々のごとく、最初僅かな人の数をもって
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
感心に一人の落伍者らくごしゃもなかった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
落伍者らくごしゃほどウヌボレの強いものはないが、ウヌボレと自信は違って、自信は人が与えてくれるもの、つまり人が自分の才能を認めてくれることによって当人が実際の自信を持ち得るもので
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)