ばら)” の例文
「毒婦だな、貴様は。——その美しい容貌きりょうを持って生れながら何という情けない心だろう。あざみの花だ。ばらの花だ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうかと思うとばらだの、はぜだの、躑躅つつじだの、もちだのというような、灌木のくさむらが丘のように、地上へこんもりと生えていて、土の色をさえ見せようとしていない。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
袖にさわつたばらの小枝の先きにも心を惹かれるほど、みのるの心は何もも懷しくなつて涙が溢れた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
さいわいにも、生命いのちには、別状べつじょうもなかったが、ちた拍子ひょうしに、ばら引掛ひっかかって、つぶしてしまいました。
植源いこうかばら脊負しょうか、ということばと共に、界隈かいわいでは古くから名前の響いたその植源は、お島の生家さとなどとは違って、可也かなり派手な暮しをしていたが、今は有名なやかまの女隠居も年取ったので
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夕雨ゆふさめのしみらにそそぐばらの垣萠えいづるそばに馬近づきぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
名も知らぬ鳥ついばめり赤きばら
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ばらにひきさく野人のゝひと
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
「いいよ! 構わないでおくれよ! どうせばらがきお延と云われるほど、持ちくずした私の身だもの、好き放題なことをして、野たれ死にするのは本望なんだよ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春といへどまだ寒むからしばらの葉にかほ寄する馬のふとはなひ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
光葉てりはばらの花むらに頭を突つ込んでみい。
香ひの狩猟者 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)