花押かきはん)” の例文
彼の手が筆と関係したのは今度が初めてで、どう持っていいか全くわからない。するとその人は一箇所をゆびさして花押かきはんの書き方を教えた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
また三十一章三十五節には「ああ我の言う所を聴き分るものあらまほし(わが花押かきはんここにあり、ねがわくは全能者われに答え給え)」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私は此通り眼が惡いので、判金はんきん光次みつつぐつた花押かきはんの下に、チヨイとたがねで傷をつけて居ります。良質の慶長けいちやう小判ですから、すぐわかります
その署名たるや、水に石を投げ込んだように、正確で、しかも気紛きまぐれな線の、波とうずだ。そして、それが、ちゃんと花押かきはんになり、小さな傑作なのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ひどく目立ったD——の花押かきはんのある、大きな黒い封印があって、細かな女の筆蹟でD——大臣へ宛てたものだった。
そして花押かきはんをそれに加え、背のえびらから上差うわざし鏑矢かぶらや一トすじ抜きとって願文に添え、神殿のまえの壇に納めた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金箔きんぱくを押した磔刑柱はりつけばしらを馬の前に立てて上洛したのは此時の事で、それがしの花押かきはん鶺鴒せきれいの眼のたまは一月に三たび処をえまする、此の書面の花押はそれがしの致したるには無之これなく
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
銅と鉛のあんこに、巧に金を着せたもので、たがねの味も眞物そつくり、裏の後藤の花押かきはんも、墨色が少し惡いかと思ふだけ、素人には眞贋の見當もつきません。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「これに教書きょうしょの案文をしたためておいた。祐筆ゆうひつに命じて、同文の教書十数通をしたためさせ、そちが花押かきはんして、それに書上げておいた大名諸武士らへ、すぐ布令ふれをまわせ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翼の羽根ペンも軽やかに、彼女らはぐるぐると誰にも真似まねのできない花押かきはんを書きなぐる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
即ち金座の後藤の花押かきはんには、素人にはわからぬ秘密があつた相で、それが後藤家代々の口傳くでんになり、金座の後藤が一と眼見れば、花押の何處かで、眞物か僞かがわかつた相です。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
かれは、あり合う竹べらに、「諾」と一字だけ書いて、花押かきはんを加え、使いの手へ渡した。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは四国、山陽などの足利方の水軍の間に用いられているらしい水路の関所札せきしょふだ——つまり船鑑札ふなかんさつであり、黒肉の割印わりいんに加えて、足利直義ただよし花押かきはんもまたあざらかといってよかった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、署名は尊氏ではなく、左馬頭さまのかみとあり、すなわち弟直義ただよし花押かきはんだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は意外な念にたれて土下座した。家中の使番石渡勘太夫は、非公式に、領主の内意を伝えて、一包みの餞別はなむけを置いて去った。それは一封の金子と、松平忠房の花押かきはんを据えた仇討の免状であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大久保石見守おおくぼいわみのかみ花押かきはん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顕家あきいえ花押かきはん
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏(花押かきはん
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)